なぜEVシフト?源流をたどってみた【カープレミア編集長のEV談義vol.1】

クルマを選ぶ テーマ別特集

ついにトヨタも本格的なEVシフトへ動き出し、猫も杓子も「クルマはEV」という流れになってしまいました。さて、どうしてそうなったのでしょうか?源流をたどってみます。

ターニングポイントは2015年「VWディーゼル不正事案」

詳しいことは後述しますが、世界の歴史を振り返り、EVシフトのスタート時点となった「地球温暖化が進んでいる」との声が上がった1970年代から、ざっくりと現在地までをエクストリームEVシフト年表形式にまとめてみました。

1970年代 「地球温暖化が進んでいる」と科学者たちが言い始める
1980年代 世界的に地球温暖化対策に動き始める
1990年代 本格的に世界中が地球温暖化対策に取り掛かる。プリウス発売。
2000年代 日産がポスト新長期規制適合のクリーンディーゼル車を発売、量産EVのリーフも発売。
2010年代 2015年VWディーゼル不正事案発生。パリ協定で地球温暖化対策が厳格化される。
2020年代 2021年7月、EUが2035年に新車のエンジン車を販売禁止にすると発表。

一気にEVシフトへ。

もう少し、その背景を見てみましょう。

1990年代に本格化した、世界的な地球温暖化対策は、全世界の自動車メーカーにおいてCO2排出を極力抑えたエンジン開発に着手させることになります。

そこで誕生したのが「クリーンディーゼル」です。もともとガソリンエンジンよりCO2排出量も少ないディーゼルエンジンの排出ガスをきれいにする技術が次々と生み出されました。

日本でも厳しい新基準に適合する  が日産のSUV『エクストレイル』に搭載され、2008年9月に発売されました。

世界初の量産クリーンディーゼル車(より正確にいえば、2009年に施行された「ポスト排出ガス規制」に世界初対応した量産車と日産が伝えたもので、この規制は、当時の世界で最も厳しい欧州規制(Euro4)を上回る厳しい基準であった。エンジンはコモンレール式。)が、日産のSUV『エクストレイル』に搭載され、2008年9月に発売されました。

日産『リーフ NISMO』筆者がEVで四国遍路を回ったときの1コマ

日本では「VWディーゼル不正事案」の前に石原都知事が…

2022年2月1日に逝去した元東京都知事の石原慎太郎氏(ご冥福をお祈りします)が1998年に打ち出したのは、「ディーゼル規制」でした。石原氏は国に先駆けて、ディーゼル車を東京都から締め出したのです。

このときの石原都知事が、真っ黒な液体が入ったペットボトルを掲げたパフォーマンスをしたのを覚えている方は多いでしょう。センセーショナルでした。

「石原都知事」ググると「ディーゼル規制」のワードが目立つ位置にサジェストされ、画像検索をタップすると、黒いペットボトルパフォーマンスの画像をすぐに見ることができるでしょう。

ここで日本国民は、ディーゼルを敵対視してしまいます。いっぽう、エンスーと呼ばれる欧州の自動車愛好家をはじめとしたクルマ好きでは「なんで日本はディーゼルがダメで、ヨーロッパではディーゼルが売れているのだ?」という疑念を抱いた人が数知れませんでした。

石原都知事がディーゼル規制を打ち出す前年の1997年には、トヨタから世界初のハイブリッドカー「プリウス」がデビュー、2003年にフルモデルチェンジされると大ヒットを記録、レオナルド・ディカプリオもプリウスに乗っていることが報じられ(2005年)、日本の自動車マーケットは、ハイブリッドが大人気となりました。

当時のディーゼル車は、アクセルを強く踏んで加速すると、後続車の視界を妨げるほどの黒煙を吐いたものでした。ガソリン車の排気ガスより汚く有害でした。また、NVH(振動、騒音・衝撃音)も悪く、ガラガラと大きな音をたててアイドリングするディーゼル車は、近所迷惑でもありました。

2000年代のハイブリッド人気の裏側ではクリーンディーゼル開発が進む

2008年9月に鳴り物入りで登場した日産エクストレイルのクリーンディーゼル

石原都知事がディーゼル規制を打ち出した後の2000年代、日本の自動車メーカーは、トヨタを中心にハイブリッド車の開発にいそしみます。

ヨーロッパと北米市場の販売台数が大きなウェイトを占める日産とマツダは、クリーンディーゼルの開発に力を入れます。前述のように日産は2008年にクリーンディーゼル車を『エクストレイル』に搭載して発売しています。マツダも独自の低圧縮比クリーンディーゼルエンジンを開発し、現在では多くの車種に搭載しています。

トヨタ、ホンダを中心にハイブリッド車が続々と発売され、日本の道路からトラックやバスなどの大型車を除く乗用車から、ディーゼル車が駆逐されていった2000年代。そんな日本の自動車メーカー勢に対して、ヨーロッパの自動車メーカー勢は、クリーンディーゼルの開発を強力に推し進めていたのでした。

欧州・北米の道路事情はハイブリッドが不向き

エンジンとモーターを組み合わせて走るハイブリッドシステムは、発進と停止が多く、走行速度が遅い日本の道路事情にはぴったり合います。減速エネルギーを電気に変換しバッテリーに溜め、発進時はその電気を使って走るハイブリッドは、燃費が良くなり、モーターの特性である強い加速力で走行フィーリングも上々です。

いっぽう、ヨーロッパの平均は日本に比べると、発進・停止は少なく、走行速度は高くなります。ドイツの速度制限なしのアウトバーンは、その代表例。フランスの高速道路の基本的な最高速度は130km/hです。

そんなヨーロッパの道路事情では、ハイブリッドシステムから受ける恩恵が少なくなってしまいます。高速巡航ではモーターよりエンジンのほうが効率が良く、燃費も良くなります。これは、北米も土地が広く高速巡航が多い道路状況ですが、ガソリン価格が欧州より安く、欧州とは異なりCO2よりNOx(窒素酸化物)の排出規制が厳しいという背景がありました。

日本のハイブリッドをグローバル市場で押し付ける必要はありません。欧州のディーゼル車を日本に押し付ける必要もありません。日本ではハイブリッド、欧州・北米ではディーゼル車を普及させれば、CO2排出量は減り、地球温暖化の抑制が期待できたのでした。

2015年、VWの不正が発覚

2015年9月18日、米環境保護庁(EPA)がドイツのフォルクスワーゲン(VW)による、ディーゼルエンジンの排出規制に不正があったことを発表しました。

この事案の内容は、環境規制検査をすり抜けるよう、クルマ側に検査にパスする燃焼制御モードになるようソフトが作られていたことと、検査をすり抜けたクルマが販売、納車されて走り回ってしまったことでした。

不正が発覚したときの計測では、基準値の10倍から40倍ものNOx(窒素酸化物)が排出されていたとのことです。

しかし、VWはそんなソフトを使わなくとも(「ディーゼルゲート」という呼び方もされています)、VWの技術力ならNOx排出量を簡単に抑えられたはず、という有力な説もあり、そもそもそのソフトを作ったボッシュは、テスト目的のみで販売車両への実装は違法と警告していた、という有力な話もあります。

いずれにせよ、VWディーゼル不正事案は、ブランドの信用失墜となっただけでなく、ヨーロッパの自動車メーカー勢が一生懸命開発したクリーンディーゼルエンジン全体にも波及してしまったのです。

ヨーロッパの自動車メーカー勢はEVで逆襲

ヨーロッパの自動車メーカー勢が、地球温暖化対策の切り札としていたディーゼルエンジンが、はかなくも散ってしまいました。そのままでは、トヨタのハイブリッドが全世界を席巻してしまう、と考えるのが筋というものです。

ヨーロッパの自動車メーカー勢が、クリーンディーゼル開発を中断して、ハイブリッド開発に乗り換えたとしても、トヨタが10年以上販売を続け、改良が繰り返されたハイブリッド技術に追いつき、追い越すのは誰が考えても至難の業です。

この先は筆者の推測。同じことを言っている方は多数いますが…

ヨーロッパは、自動車メーカーと国がべったりくっついている傾向があります。ルノーはフランスの国有企業でした。日本でも同じですが、雇用や輸出の主力となる自動車産業は国の財政と表裏一体となる部分が大きいものです。

クリーンディーゼルの切り札をなくしたヨーロッパ勢(メーカーと国をまとめて)、次なる手を打たねばなりません。パリ協定で決まったことは、覆水盆に返らずです。

そこで「EVがあるじゃないか!」となったわけです(筆者の妄想)。

EVで先陣を切っていたのは日産でしたが、EV市場がまだまだ黎明期、技術的にも未熟の領域です。内燃機関100年の歴史からすると、まだ乳飲み子です。これなら、ヨーロッパの自動車メーカー勢も、グローバルで競争に打ち勝てるシナリオが書けます。

さらに都合が良いことに、ヨーロッパの自動車メーカーのプレミアムブランドは、車両価格がどうしても高くなるEVでも販売しやすいのです。

200万円のガソリン車が、300万円のEVにフルモデルチェンジしたら多くのユーザーは逃げてしまうでしょう。しかし、1,200万円のガソリン車が1,500万円のEVになったら、逃げるユーザーは少ないでしょう。お金持ちにしてみれば、1,200万円と1,500万円は誤差の範囲(遠い目)。

というわけで、一致団結したヨーロッパ諸国すなわちEUと自動車メーカー(イギリスは抜けちゃいましたけど)は、「2035年にガソリン・ディーゼルの新車販売を禁止する」としたわけです。この発表を行った2021年7月14日は「EVシフト記念日」となるはずです(筆者の妄想)。

地球温暖化の原因は?そしてほんとに温暖化?

ここまで、EVシフトはなぜ起きたのか、その源流をたどってみました。また、ここまでの前提は「地球温暖化の原因は二酸化炭素」で「カーボンフリー」を目的とするものです。

しかし、この前提にもスポットライトを当ててみるべきです。よく調べてみると、非常に興味深い記事や研究結果がたくさん出てきました。長くなりますので、この点は次の記事の談義としましょう。

ここまでのご清読、どうもありがとうございました。

※この記事は、2022年2月時点での情報を元に執筆しています。

関連記事

カテゴリ週間ランキング

中古車検索は月額比較のカープレミアがおすすめ!

中古車検索は月額比較のカープレミアがおすすめ!