2021年2月8日、Hyundaiが2モデルのZEVを引っさげて日本再上陸を発表しました。今回は、そのうちのEV『IONIQ 5』に試乗しました。
呼び名は『ヒュンダイ』改め『ヒョンデ』に
2001年に日本の自動車市場に参入したヒュンダイは、ブランドイメージの構築がうまくいかず販売は低迷し、2010年に撤退してしまいました。その後、12年の時を経て再び、日本市場に参入しました。
日本市場への再参入と、日本市場で販売するZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)2モデルの発表会では、かつての日本市場での販売低迷について「反省」という言葉を用いて語られ、今回の参入は顧客とのコミュニケーションを大切にブランドを構築していく旨が語られました。
また、ブランド名の呼び方は、世界統一の「ヒョンデ(韓国語の発音により近い音)」に変わりました。
日本市場において、韓国車のシェアは極めて少なく、過去の失敗もあることから、ヒョンデの再参入は各方面から注目されていました。いっぽう、欧州・北米ではヒョンデの販売シェアは大きく伸び、世界第6位(グループ会社ベース)の自動車メーカーに成長しています。この規模は、国産車メーカーでは、トヨタを除くすべてがヒョンデの規模に及ばないものとなっています。
日本市場に導入されるBEV(バッテリーEV)の『IONIQ 5(アイオニック ファイブ)』は、2022年のドイツ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。欧州古参有名ブランドを押しのけての受賞は、製品力の高さがあってのものです。
とはいえ、欧州で人気があり、製品力が高いモデルが日本の市場においても同じかといえば、そうではありません。はたしてその実力はいかがなものか?筆者は、IONIQ 5で走り倒してその実力をチェックすることにしました。
『IONIQ 5』とはどんなクルマ?
『IONIQ 5』はご覧のとおりの5ドア・ハッチバックです。画像で見るとコンパクトに見えますが、実車は堂々としています。ボディサイズは、全長4,635mm・全幅1,890mm・全高1,645mm・ホイールベース3,000mm。同じようなボディサイズの国産車は、トヨタ ハリアー。IONIQ 5はハリアーより全長が10.5cm短く、全幅が3.5cm広く、全高は1.5cm低く、ホイールベースは21cm長い(!)というディメンションです。
IONIQ 5のパワートレインは3タイプ
IONIQ 5はリアにモーターが置かれる後輪駆動がベース。ハッチバックのEVでRWDは珍しい存在です。
無印(グレード名なし)のベーシックグレードは、最高出力125kW(170PS)最大トルク350N・m、バッテリー容量は58kWh、航続距離498km(WLTCモード)。
中間グレード『Voyage(ボヤージュ)』と上級グレード『Lounge(ラウンジ)』のRWDモデルは、最高出力160kW(210PS)最大トルク350N・m、バッテリー容量は72.6kWh、航続距離618km(WLTCモード)。
『Lounge』にはフロントにモーターが追加される4WD『Lounge AWD』グレードを設定。このモデルのシステム最高出力は225kW(305PS)最大トルク605N・m、バッテリー容量は72.6kWh、航続距離km(WLTCモード)。スポーツカー並のスペックですね。
総走行距離1,100km超
筆者は試乗するとき、いつもクルマに合った目的地を選んでいます。今回はさまざまな道路状況でIONIQ 5のチェックをしたいと思い、日によって目的地、コースを変えました。
1日目は、貸出開始日で時間がないこともあり、都内を約4時間走り、2日目は高速道路からワインディング、未舗装路と多彩なコースを走るという、レジャーで長距離走行をする想定で丸1日を走行、3日目は東名東京インターから、新東名いなさJCTを経由して東名高速で戻ってくるという、新東名・東名を周回走行し最後に首都高速大黒PAにある、新型急速充電設備で充電テストを行いました。総走行距離は1,100kmを超えています。
【総合評価】日本の道路を知り尽くしたかと思うほどの出来の良さ
さすが、ドイツ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するだけのことはあります。基本性能の高さだけでなく、日本に合わせてしっかりとセッティングを煮詰めてきた印象を受けました。
ヒョンデの担当から聞いた話では、2010年に日本市場から撤退した後も、既存顧客のサポートをしながらR&D(研究開発部門)は残っていたといいます。また、IONIQ 5は国内でのテスト走行を重ね、日本人の感覚や道路事情に合うようサスペンションのセッティングは、英国仕様より柔らかく、北米仕様よりは固めにされたとのことです。
また、メーターパネルをはじめとしたディスプレイの表示もしっかりとローカライズされており、変な日本語は見当たりませんでした(揚げ足を取るようですが、1カ所だけ「プレミアムオーディオ」が和訳され「高級音響」となっていたのが気になった。逆にいえば、そんなところが気になるほどの完成度の高さがある)。
カーナビの開発にも力を入れたとのことです。ゼンリンの地図を用いて、とても見やすく操作しやすく仕上げられていました。ヘッドアップディスプレイに行き先を矢印でAR(拡張現実)で道路上に表示するといったギミックも、見やすく違和感のないものでした。
良い意味でびっくりしたのは、公共急速充電設備での充電効率の高さでした。新東名、東名高速のSA・PAで充電したとき、80〜99%の出力で充電ができました。これは、発売前にしっかりと調整をしたものと推測されます。ただ、1カ所、首都高速 大黒PAに『e-Mobility Power』社が新たに設置した、ニチコン製の6基の新型90kW出力充電器では3割程度しか入りませんでした。ここは、IONIQ 5に限らず、多くの輸入車が充電効率の悪さがあることが判明しています。
総合評価
燃費 | ★★ | 試乗車はハイパフォーマンスなAWDモデルのため、電費はあまり良くないと思いきや、意外と伸びた。今回の試乗のトータル電費は半分以上高速道路というEVには不利な条件で、5.2km/kWh。 |
加速 | ★★★ | 300馬力オーバーの四輪駆動EVで加速が悪いわけがない。停止状態からアクセルをベタ踏みすると首が後ろに持っていかれるので注意。 |
ハンドリング | ★★★ | 重心が低く、しっかりとした足まわりとステアリングで、良好なハンドリング。運転しやすく、楽しい。 |
操縦安定性 | ★★★ | 直進安定性、コーナリングの安定性ともに高い。高速コーナリングでもステアリングがピタッと決まる。ベクタリングコントロールが欲しい。そういう欲が出るクルマ。 |
乗り心地 | ★★★ | 19インチの大径タイヤで、ストロークの短いサスペンションだが、あらゆる路面状況で総じて乗り心地がよかった。日本の道路に合わせて入念にセッティングされた印象を受ける |
取り回し | ★★ | 全幅1,890mmはさすがに狭い道路のすれ違い、狭い駐車場では辛い。ただ、前後のオーバーハングが短く、ハンドルの切れ角がしっかりと取られているので、不自由はしなかった。 |
NVH | ★★★ | 乗ってすぐに静粛性の高さに驚いた。サイドウィンドウは合わせガラスを採用。遮音性に優れる。ロードノイズも少ない。高速走行の風切り音が気になるのはEVの宿命。 |
走りの愉しさ | ★★★ | 意のままに操れる愉しさあり。峠を攻めてもおもしろい。 |
外装デザイン | ★★★ | 未来感あるデザイン。既視感あるなと感じた人は、子供の頃に見た未来のクルマでは? |
内装デザイン | ★★ | 外装デザインの世界観を壊さない範囲で、リビングのような空間をうまく作っている。操作系もわかりやすい。 |
室内空間 | ★★★ | 身長180cmの筆者が後席に座っても、頭は天井に付かない(足が短いという指摘覚悟)。大人4人乗車も余裕。車内は広い。 |
ラゲッジ | ★★ | 必要にして十分。ゴルフバッグは1つ斜めに入る程度。ハッチバックなので仕方ない。派生モデルでステーションワゴンを出してほしくなる。 |
快適装備 | ★★★ | リビングのような空間作りがテーマ。そのテーマどおりの快適装備を備える。 |
安全装備 | ★★★ | 先進安全装備は、世界標準レベルをしっかりと確保。ウィンカー操作に連動して後輪内輪のカメラ映像をメーターパネルに映し出す機能をはじめ、装備は充実。 |
運転支援 | ★★★ | ハンドル操作支援、全車速ACCと充実。操作性が良く、しつけも良い。車間距離の取り方もよく安心して使える。 |
コスパ | ★★★ | ライバルは、トヨタ bZ4x、日産 アリア、アウディ e-tron。性能、装備、パッケージングを比較するとIONIQ 5のコスパは優れているといえる。 |
車両価格は、無印が479万円、『Voyage』が519万円、『Lounge』のRWDが549万円、AWDが589万円。無印なら補助金を考慮して300万円台という魅力的な価格です。
2022年は、続々と500万円台からのミドルクラスEVのデビューが予定されています。IONIQ 5は国産EVの好敵手となるのではないでしょうか。
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※この記事は、2022年3月時点での情報を元に執筆しています。