試乗レポート「スズキ アルト(2021年〜)」ナチュラルな感じで、気負わず安心して運転を楽しめる(嶋田智之)

クルマを選ぶ 試乗記

アルト47万円という有名なキャッチフレーズで世に送り出された初代アルト。2021年12月にデビューした最新モデルは初代から数えて9代目というロングセラーモデルとなっています。マイルドハイブリッドや最新の安全装備も搭載されたアルトは、嶋田さんの目にどう映ったか。たっぷりレポートします!

もしアルトが世に出なかったら軽自動車の文化はどうなっていたのだろう

1979年に登場した初代アルト

アルト47万円──。その衝撃的なキャッチを耳にして興味をかき立てられたのは、ある世代より上の方だと思います。もちろん僕もそっちに属しています。

確かあれは1979年、ほとんどが60万円以上だった軽自動車の価格帯に対して、徹底的なコストダウン設計、機能優先でほかは極めてシンプルという仕立てで車両本体価格を47万円に抑えたアルトは、ある意味、時代の英雄でした。

軽自動車市場が厳しい局面にあった中、車両価格の15.5%という乗用車に課せられていた高い物品税を回避するための軽商用車登録という秘策を打ち出し、自動車業界で初めて全国統一価格という設定を掲げ、ユーザーにアピールしたのです。

1984年に登場した2代目アルト

結果がどうだったか、それは1984年の2代目へのバトンタッチまでの間に84万4,000台ほどを販売したという数字が表していると言えるでしょう。そしてアルトに刺激を受けた他メーカーが後を追ってライバルとなるモデルを次々と生み出し、軽自動車市場が元気を取り戻しはじめ、それが今に続く発展への礎になったのでした。

“アルト47万円”の存在がなかったら、諸外国の自動車メーカーが驚きの目を持って見ている日本の軽自動車という文化のようなモノはどうなっていたんだろう? なんて思ったりもします。

初代アルトは、安かろう悪かろう、ではありませんでした。

1982年にフロンテ譲りのちょっとハンサムで優しかった顔が角形ヘッドランプに変わった辺りだったと記憶しているのですが、ちょうど免許を手にしたばかりの僕たちクルマ好きの仲間たちが集まっているところに、実家の商売で使っていたアルトで乗りつけてきたヤツがいて、ドライブさせてもらったのです。

実はアルト、実用車のくせにかなり面白かったのでした。パワーはないけれどクルマとしての基本性能はしっかりしていて、操縦性もなかなかのもの。僕たちはアクセルをとにかく全開にして走りたい盛りの粗削りなドライバーでしたが、か細いタイヤをときどきスルリと滑らせながらコーナーを素早く抜けていく醍醐味まであって、クルマの楽しさはスペックや値段だけじゃわからないということを知ったのです。

限られたパワーを最大限に活かして走る楽しさというものを僕に最初に教えてくれたのも、友達の実家の配達用アルトでした。

それ以降、何度かステアリングを握らせてもらうことになるわけですが、普通にいいクルマでした。

尖ったところは何ひとつなかったけれど逆に気になるところも何ひとつなく、あまりにも当たり前のように走ってくれたから、友達同士でいろんな話をしたりカーステ(もはや死語ですね)で流行りの曲を流して一緒に歌ったりしながら夜通し意味もなく走るような当時の僕たちの(無駄のように思えるけど実はそうでもなかった)ライフスタイルを、楽しくアシストしてくれました。実用車として、優秀だったのだと思います。

穏やかで柔らかなスタイル。それがアルトのいいところ

いったいなぜそんな話をし始めたのかというと、2021年末にフルモデルチェンジが行われた9代目アルトに乗って、同じ香りを感じたからなのです。

確かに商用車登録ではなく全グレードが5ナンバーの乗用車ですし、初代のように助手席側の鍵穴すら省くようなところまで度を越していた簡素なクルマというわけでもありません。

それでも最も安価なモデルの94万3,800円という価格は、軽自動車最安値でこそないものの大卒初任給ベースで考えると初代の“アルト47万円”にかなり近いし、多くの人が選ぶであろうマイルドハイブリッドモデルの109万7,800円からという価格設定は、軽のハイブリッドカーの中では間違いなく最安値です。僕が試乗したのは、そのマイルドハイブリッドモデルでした。

新型アルトは、顔立ちにこそ先代のイメージが残されていますが、全体的には先代ほど攻めた印象はなく、むしろ穏やかで柔らかなイメージです。全高が50mm高くなっていることも影響しているのでしょう。声高じゃない自然な感じに、好感を持ちました。

全高が高くなっていることは、もちろん居住性にもいい影響を及ぼしています。スーパーハイトワゴンのように広いわけじゃありませんが、逆に軽自動車規格の車幅で頭上だけ異様に広いと、僕などは落ち着かない気持ちになっちゃいます。

アルトの空間は、圧迫感はないな、と感じられる程度の適度な広さ。何も気になるところのないこれまた自然な感覚がいいな、と思いました。フロントウインドーやAピラーの角度が先代より立っていて、視界がクリアに感じられるのも要因のひとつでしょう。

カジュアル感が心地良い室内

シートに座って前方を見ると、どことなくふっくらしたまろやかなインパネ周りが目に入ります。メーターナセルの中の速度計の白がやたらと目立って感じられましたが、視認性を考えれば悪いことではありませんし、すぐに気にならなくなりました。全体的には目に優しく、操作系もわかりやすく、過ごしやすいコクピットだと思います。

このクラスの常として高級感はありませんが、チープなことを恥じて無理に高見えを狙ってあがくようなところのない潔さは、僕は嫌いじゃありません。カジュアルな装いのデニムっぽい表皮があしらわれたシートも、フィット感がよくて座り心地も良好でした。長距離でも疲れにくいんじゃないか?という予感がします。

オーディオやナビゲーションシステムはユーザーが予算や好みに合わせてオプションやアフターマーケットから選べるよう基本はレス仕様、だけど後付けするには大変なエアコン、パワーウインドー、キーレスエントリーなどは最も安いモデルでも標準装備、という考え方もいいと思います。

紙パックすら収められるドリンクホルダーやティッシュボックスが置ける大きさのフロアトレイ、タブレット端末を差し込めるポケットなど、便利な収納スペースがあれこれ設けられているのは、限られたスペースを有効に使うべく編み出された、“日本の軽自動車づくり”で培ってきた実用性の高さ、ですね。

アルトの走りはまるで“出来のいいサンダル”のよう

でも、“かなりいいな、これ”と感じたのは、走り出してからでした。試乗車は最新の657cc直列3気筒自然吸気エンジンにISG(モーター機能付き発電機)が備わったマイルドハイブリッドモデル。36ps/6,500rpmに58Nm/5,000rpmのエンジンを、2.6ps/1,500rpmと40Nm/100rpmのモーター機能がアシストします。やや高回転型のエンジンの弱いところ、つまり低回転域をモーター機能が補ってくれているのですね。

しかもその両者の組み合わせの美味しいところを上手にキープしてくれるCVTが、いい仕事を見せてくれています。だから停止状態からスタートするときや低回転域でゆっくり走るときにありがちな力不足というのを、感じることがありません。

もちろんエンジンの排気量が排気量だし大量の電池を要する強力なモーターが備わっているわけでもないので、ダッシュが強力というわけじゃありません。けれど、もたついたりじれったい思いをするようなこともありません。

スポーツカーでもないわけで、シャープなハンドリングがあるわけでもありません。でも、ステアリングを操作すると適度な間合いでスッと自然に曲がってくれます。クイックではなくナチュラル。コーナリング中は車体がそれなりに傾きますが、クルマがいきなり妙な動きを見せることがないから、気負わず安心して走らせることができます。

車体の剛性が上がっているからか、サスペンションもよく仕事をしてくれているようで、これまでのモデルと比べると乗り心地もしっとり感が増している印象。車内に入ってくる様々な音も、抑えられているように感じられます。不満らしい不満があるわけじゃないし、何か気になるようなことがあるわけでもないし、とにかく当たり前のように気持ちよく走らせてくれるのです。

実はこのとき、僕は某メディアの編集長を隣に乗せて走っていたのですが、日常的な走行環境の中で普通に発進して普通に流れに乗って……と繰り返しているうちに何だかまったりと和んだような気分になり、最初は新しくなったアルトについて話していたのに、いつの間にか全く関係ない雑談になって、妙に盛りあがってしまいました。

新しいクルマに試乗しているときにそんなふうになることって、実はかなり珍しいのです。それだけクルマがすべてにわたって自然で、何ひとつ気に入らないと感じるところがなく、すんなりとドライバーに馴染み、当たり前のように気持ちよく走ってくれた、ということなのだと思います。

サッと足に引っかけてスルッと用事をすませて気分良く帰ってこられる、出来のいいサンダルのようなクルマ。そんなふうに感じています。

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【まとめ】自然な感じを余すところなく満たすってすごい!

趣味の対象となればまた違う要素が必要になってくることもあるのですが、アルトはデイリーな実用車。尖っていたり主張が強かったりすると、ちょっと気疲れしちゃいます。

“自然”だったり“気になるところがない”だったり“当たり前のように”だったり、そういうところってものすごく大切。新しいアルトは、それらを余すところなく満たしています。

軽自動車のカテゴリーではホンダのNシリーズの評価がかなり高いし、それには僕も同意しますが、このアルトもまったく負けてないんじゃないか?と素直に思うのです。

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