日産 アリア B6 2WDで、日産本社のある横浜から熊野古道を目指して走った長距離試乗をレポートします。途中で予想だにしないトラブルに逢いましたが、注目の新型EVの実力を確かめてきました。
【航続距離テスト】横浜から名古屋まで無充電で行けるか?
半導体不足の影響を受けて発売が延びて2022年5月12日となった日産 アリア。2020年7月発表からまるっと1年以上も経ち、まだかまだかと待っていましたが、ようやくバッテリー容量66kWhと小さいほうの『B6』の2WDからデリバリーがはじまり、広報車も用意されました(バッテリー容量が90kWの『B9』と4WD『e-4ORCE』は現時点未発売)。
アリア B6 2WDは、すでに公道試乗会が開催されレポート記事も公開されています。しかし、その試乗時間は短く、アリアの真の実力を確認するまでには至っていませんでした。今回は、徹底的に走り倒すべく、行き先の熊野古道は、東京から最も遠い地点となる高野山を目指したのでした。
まずは、クルマを借りた横浜の日産グローバル本社から、首都高速・保土ヶ谷バイパスを経由して東名へ(実は、保土ヶ谷バイパスから東名へ乗るとき、間違えて東京方面へ戻ってしまっています)。満充電で貸し出しを受けていますので、どこまで行けるかの航続距離テストをしてみました。
最初の充電は「刈谷ハイウェイオアシス」
道中は雨に降られながら、新東名の120km/h制限速度区間は規制がかからず、プロパイロット2.0をふんだんに使って、120km/hの定速で走行しました。EVは、高速巡航が苦手です。モーターの特性は、回転数が低いときのトルクが太く(理論上では、0回転が最もトルクが太いとされる)、高回転になるほどパワーが落ちていきます。さらに、高速走行時は空気抵抗も増大します。空気抵抗は、速度の2乗に比例して大きくなるため、80km/h走行時に対して120km/h走行時での空気抵抗は約2.2倍に及びます。
最初の充電は、名古屋の少し手前「刈谷ハイウェイオアシス」となりました。SOC(State Of Charge」の略で、充電率のこと)が表示する、バッテリー残量は12%、航続距離50kmを切ったところでの充電となりました。ここまでの走行距離、約350km(横浜から東京に戻ってしまったので約50km余分に走っている)。だいたい、東京から名古屋までは満充電で出発すれば、名古屋あたりまではたどり着く計算です。ただ、このときの気温は20℃以下の気候条件ですので、夏や冬では航続距離が変わってくる確率が高くなることを補足しておきます。
平均電費は6.5km/kWhとなり、ややもすればリーフと同等、場合によってはそれ以上の電費が記録できる可能性があります。新東名120km/h区間をフルに制限速度で走りきったことを考えると優秀です。
けっこうな雨でもハンズオフが使えた!
東名・新東名を走行中、けっこうな雨に降られましたが、そんな中でもプロパイロット2.0のハンズオフ(ハンドルから手を離す)走行が使えたのは驚きでした。ただし、速度設定は、制限速度以下(厳密にはプラス10km/h)に設定しないと、ハンズオフにはならない安全設計となっています。また、高速道路のカーブのほとんどでハンズオフが使えたのもすばらしいポイントです。
雨の中のハンズオフ走行など刈谷ハイウェイオアシスまでの模様は動画で
長距離ドライブでの疲労は少なかった
前回の公道試乗会のときでは、足の固さが気になりましたが、ずっとアリアを運転しているとそれに慣れてしまいました。ワインディングや路面が荒れたところで時折、足の動きと車体のひょこひょこする上下動が気になりましたが、スムーズな加速と高い静粛性、そしてさすが日産とうならせるモーター制御の巧みさに救われ、ロングドライブでも非常に疲労が少なかったですね。
和歌山の山奥、龍神でまさかのパンク!
携帯の電波が届かない区間がある龍神を走行中、メーターに空気圧低下のアラートが!安全を確認して駐車帯に入りクルマから降りると、左前輪から「プシュー」という音が!あっという間にタイヤはペチャンコになりました。
アリアはスペアタイヤ非搭載なので、パンク修理剤を入れるも空気圧は戻らず……。あとでわかったのですが、鋭い石がタイヤの溝にプスっと刺さってしまったようでした。
レッカーを呼び、最寄りのガソリンスタンドでチェックしてもらったのですが、タイヤ交換しないとダメなレベルのパンクでした。そのまま、最寄りの日産ディーラーに向かうことになったのですが、その最寄りはそこから70kmほど離れた上、東京方面からは遠い和歌山県田辺市だったのでした。JAFでレッカーしたのですが、その費用、40,000円ほどでした……。
ちなみにタイヤは、アリア専用の吸音スポンジが内部に貼られ静粛性を高めたもの。1本のお値段は54,000円でした(広報車だからという特別価格ではなく、一般ユーザーと同じ価格)。専用タイヤなのでもっと高いかと思っていたのですが、予想を下回る金額でした。
こんな事態を考えると、スペアタイヤのありがたさを感じます、新しいクルマのほとんどは、スペアタイヤを搭載せず、パンク修理剤を搭載しています。その理由のひとつに、タイヤの耐パンク性能の向上がありますが(ラゲッジスペースの確保という目的もあり)、運が悪いと(踏みどころが悪いとでもいいましょうか)パンク修理剤が使えず、レッカーのお世話になってしまいますので、場合によってはトータルコストが高くなってしまいますね。
やっぱりデザインは秀逸。ドライブ中は熱い視線を幾度となく浴びた
しかし、なんといっても、アリアのデザインはいいですね。試乗車のボディカラーは「ステルスグレー」。ブルーグレーは最近の流行です。筆者はこの色が大好きで、日産広報担当が、気を利かして用意してくれました。
試乗した時期は、まだアリアのデリバリーがはじまったばかりで、公道を走るアリアを見かけるとTwitterに投稿されるほどの珍しさもありましたが、いろんなところで注目を浴び、「これ、アリアだよね?」と話しかけられたこともありました。
自分のクルマではありませんが、駐車場に止めたアリアに向かって歩くとき「かっこいいー」と所有欲を満たしてくれる感じがありました。また、インテリアもすっきりとしていながら、先進感もあっていいものです。足回りが広いところも良いポイントでした。
【総合評価】所有して満足度の高いEV
筆者が試乗したクルマを、10項目×5段階で評価、★1個を2点として100点満点の総合評価として採点します。各項目、評価の理由をお伝えしますが、あくまで筆者のインプレッションによるものですので、ご参考としてご覧ください。
No. | 項目 | 評価ポイント |
---|---|---|
1 | 内外装デザイン | デザインの良さ、ボディカラーやインテリアカラーのバリエーションなどを評価 |
2 | エンジン・トランスミッション | パワートレインの良し悪しを評価 |
3 | 足回り | 乗り心地の良さ、操縦安定性などを評価 |
4 | 燃費・電費 | 燃費、電費を評価 |
5 | 居住性 | 室内空間の広さ、静粛性などの快適性を評価 |
6 | 装備・使い勝手 | 装備の充実度、使い勝手の良さを評価 |
7 | 安全装備・運転支援 | 予防安全技術、運転支援システムなどの先進技術装備を評価 |
8 | 価格 | コストパフォーマンスの良さ、お買い得感を評価 |
9 | 乗りやすさ | 小回りが効くなどの取り回し性の良さ、普段使いでの運転のしやすさなどを評価。 |
10 | クルマの愉しさ | スペックを考慮しないで、純粋にクルマを所有するよろこびや、ドライビング・プレジャー(走る愉しさ)を筆者の独断と偏見で評価 |
【総合評価】88点!
EVとしての評価は高いものの、現時点では、EVは万人受けするクルマではないということを念頭に置いていただきたい。
1 | 内外装デザイン | ★★★★★ | エクステリア・インテリアともに秀逸なデザインと筆者は思う。かっこいい。ボディカラーラインナップも豊富でセンスも良い。 |
---|---|---|---|
2 | パワートレイン | ★★★★ | 十分な動力性能は持っている、ただ、四輪統合電子制御のe-4ORCEが今後出てくることを考えると、2WDでは★4つとしたい。 |
3 | 足回り | ★ | 長距離試乗では慣れてしまったが、バタつく足回り、ひょこひょこ揺れるボディは改良を望むところ。ここは辛口の★1つとした。 |
4 | 燃費・電費 | ★★★★ | ミドルサイズSUVのEVとしてはかなり優秀では?ただ、ライバルが少ないのでなんとも言えないが……。 |
5 | 居住性 | ★★★★★ | 居住性、静粛性の高さは特筆すべき。EVだからこそできるフラットなフロアを最大限に活用したパッケージングとなっている。 |
6 | 装備・使い勝手 | ★★★ | 十分な装備がある。充電時間を使い勝手の範囲とするなら、アリアに限らずEVは不利。アリア以外のEVでも★4つ以上は、よほどのことがないとつけないだろう。 |
7 | 安全装備・運転支援 | ★★★★★ | プロパイロット2.0のハンズオフ走行は、一度使ったらやめられません。運転支援の分野でも日産が世界をリードする。その恩恵はアリアでも。 |
8 | 価格 | ★★ | バッテリー価格が高いEV。アリアに限らずコストパフォーマンスは補助金があっても良いとは言い難い。 |
9 | 乗りやすさ | ★★★★ | 狭い道でも扱いやすい。360°アラウンドビューも高画質で乗りやすさをプラスする。 |
10 | クルマの愉しさ | ★★★★ | 運転する面白さというより、先進性やデザインといった愉しさのほうが大きい。 |
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(撮影・文:宇野 智)
※この記事は2022年8月現在の情報に基づいています。