2021年10月、第2世代へと進化したトヨタ GR86とスバル BRZ。スバルとトヨタが共同開発した兄弟モデルで、どちらも水平対向エンジンが発するパワーで後輪を駆動させるFRスポーツですが、走らせるとその性格が異なっていることがわかります。あなたならどちらを選ぶべきか。自動車ライターの嶋田智之さんがレポートします。
【イントロダクション】2022年は、スポーツカーが盛り上がる気配あり!
2022年最初の日本のクルマ好きにとっての大きな話題は、先日開催された東京オートサロンで新しい日産 フェアレディZの日本市場向け市販モデルが堂々公開となったことでしょう。
初代フェアレディZをはじめとする歴代モデルの面影をあちこちに見ることができる新型Zの周りは、常に人垣に次ぐ人垣という感じだったようです。それもそうでしょう。だって、めちゃめちゃカッコイイと思うから。
スタイリングデザインは優劣じゃなくて好き嫌いで語られるのが基本ですけど、SNSなどをパトロールしてみても、新しいフェアレディZは様々な世代から高評価を得ている模様です。
そうなると気になるのは価格。6月下旬頃に発売されるファーストエディション的な位置付けの、限定240台の特別仕様車の価格が696.63万円であることが発表されています。おそらくベーシックなグレードの価格は600万円ちょっとくらいになるんじゃないか? と予想できる値付けは、メーカーとしては極めて商売になりにくいスポーツカーを開発し直してリリースしてくれたということを考えると、個人的には妥当であるように感じています。
トヨタのGRスープラの3リッター直6エンジン搭載モデルが731.3万円。開発にまつわる諸条件に違いはありますが、日産がんばったな、と素直に思えます。
【生い立ち】日本には、手頃な価格で走りを楽しめるスポーツカーがある!
が、クラスは異なるものの、同じ“日本のスポーツカー”であるトヨタのGR86とスバル BRZを忘れちゃいけません。Zのおよそ半額で販売されているのです。しかも昨年デビューした新型86/BRZは、スポーツカーとしてのパフォーマンスにもとっぷりと満足できちゃう見事な出来映え。2021年のクルマにまつわる僕の体験の中で、ベスト3に入るくらいの衝撃でした。
ご存じのとおり86/BRZは、トヨタとスバルの共同開発によって生まれた後輪駆動のスポーツカーです。
初代がデビューしたのは2012年。自然吸気の水平対向2リッターをほぼフロントミッドシップといえる位置にレイアウトし、エンジンのパワーそのものは200ps(後期モデルは207ps)と“まぁほどほど”なところでしたが、その重量バランスの良さやシャシーの念入りなセットアップが抜群の威力を発揮して、性格付けは少しずつ異なるものの、どちらもドライビングというものをとことん楽しめるスポーツカーに仕立て上げられていました。
【デザイン】よく見ると違うフロントフェイスが与えられている
新型GR86/スバルBRZは、9年半ぶりに生まれ変わったフルモデルチェンジ版です。コンセプトや基本的な構造を受け継ぎながら、あらゆるところに手が入れられた、という印象です。
その一つひとつを並べるわけにはとてもいきませんが、注目すべきポイントとしてはエンジンが2リッターから2.4リッターに拡大されたこと、車体が例えばねじり剛性で先代比+50%となるなど大幅に強化されたこと、見逃しがちな細かいところですがアルミルーフの採用などでクルマの重心高を4mm低くし、フロントのシートをそれぞれ3.5mmずつセンターに寄せるなど、低重心化とマスの集中化を図ったこと、でしょう。一言で言うなら、よりパワフルに、より高い運動性能を、という狙いを持って開発された、ということですね。
実車を前にすると、シルエットそのものは先代と同じ方向性ではあるけれど、比較的さっぱりシンプルに感じられた先代と較べ、かなり肉感的になったな、という印象です。ボディ各部の表面に抑揚がついて、空力効果を意識させるディテールも与えられて、スポーツカーとしての色気が増しています。先代の派手すぎないスタイリングも好きでしたが、パッと見た瞬間に「おっ、カッコイイかも」と感じられるのは新型のほうかもしれません。
“スポーツカーは後ろから見たときの姿が重要”とは好き者たちのあいだでよく語られる言葉ですが、新型の斜め後ろから見たときのプロポーションの良さにはグッと惹きつけられるものがあると思います。
もちろん86とBRZで違いはあって、印象も少し異なるのですが、それはフロントグリルなどディテールが変わっていることによるもの。先代と比べてグッと質感が高くなったインテリアも、まったく同様です。そのあたりは写真や公式サイトを見比べていただくのがいいでしょう。
もし違いに気付かない部分があったとしたら、それは見る人の“どっちが好き”という感覚にはあまり影響してないということの証しみたいなものですから、そこはそれほど深く考えることもないでしょう。
【走行性能】ヤンチャな86,落ち着きのあるBRZは、両車の伝統
さて、86とBRZは同じ地点から出発し、同じメカニズムを持った双子 車ではありますが、人間の世界でも双子の性格が異なっていることが多いのに似て、初代のときからやっぱり少しずつクルマとしての性格が異なっています。
ものすごくざっくりした表現ではありますが、86はヤンチャなところのある性格、BRZはちょっと落ち着きのある性格、といった感じでしょうか。それは2代目となった新型でも踏襲されていました。
いうまでもなくパワートレインをはじめ基本的な部分は共通なので、受ける印象が両車共通といえるところも多々あります。
例えばエンジン。従来の1998ccだったFA20型をベースに新たに開発されたFA24型は2387ccとなりましたが、その排気量の拡大はボアの径を拡大したことによるものです。以前はφ86.0×86.0mmだったものがφ94.0×86.0mmと、いまどき珍しいかなりのショートストローク・タイプとなりました。最高出力は従来と同じ7000rpmで28ps高い235psを発揮し、最大トルクはこれまでより2700rpm低い3700rpmで、45Nm大きい250Nmを発生させています。
そんなところからよりパワフルになりより低回転から力強さを発揮する、イコール、どこからアクセルを踏んでいっても速いエンジンになったことが予想できたわけですが、まさしくそのとおり。
先代では発進直後の領域で力不足を感じたり、走行中に一度回転を落としてしまうとそこからしばらくはじれったさを感じたりするようなことがあったのですが、この2.4リッターではそれが皆無。あらゆる回転域ですぐさま厚みを増したトルクを感じることができて、ストレスがありません。スムーズにシャープに回転を上げながらパワーを膨らませていき、トップエンドへと突き進んでいくのです。
もちろんスピードもしっかりついてくるからその点でも不満はないのですが、それより何より気に入ったのはフィーリング。いかにもショートストロークらしい鋭いレスポンスもなめらかに伸びていく様も、巧みに作られた抜けのいいサウンドも、すべてが気持ちいい。ああ、スポーツカーに乗っているんだな、と感じさせてくれるエンジンに仕上がっているのです。
トランスミッションは6速のMTと同じく6速のAT。MTであることが操ることそのものを楽しむという点で歓びが大きいのはいうまでもありません。
ユニットの構造を見直したというギアボックスは、これまでよりも正確でスムーズにシフトできるようになり、フィールもわずかに心地良さを増していて、飛ばさず普通に走っていても楽しい気分になれるレベル。
ATも先代のものをベースに手が加えられ、スポーツモードで走っているときにはブレーキングの際に積極的に適切なダウンシフトをして次の加速に備えてくれるから、オートのままでもワインディングロードを思いのほかリズミカルに走れたのがうれしいところ。もちろん変速パドルも備わっているから、マニュアル操作をすることで自分の意思に合ったギアを選択することも可能です。
MTもATも、スポーツカーのトランスミッションとして不満を感じることはないでしょう。
【BRZの乗り味】スタビリティ重視な大人のグランドツーリングカー
ならばGR86とBRZの違いはどこにあるのか。それは主としてシャシー周りのセットアップ です。
当初は電動パワーステアリングの制御とダンパーの減衰力くらいで差別化を図る方向性だったのですが、開発のほぼ最終段階といえるところに来てトヨタ側がGR86に独自のチューニングを施すことを望み、コイルスプリングのレート、ダンパーの減衰、フロントスタビライザーの構造、リアスタビライザーの支持構造、フロントのナックル、リアのトレーシングブッシュなど、大幅な変更が加えられることになったのでした。これまたざっくりな言い方ですが、アシの前後バランスが違うのです。
BRZはフロント側が硬め、リアをやわらかめにすることで、フロントの過敏さのない反応とリアの安定感を得ている感じです。いわゆるスタビリティ重視 というヤツ。
もちろんドライビングできっかけを作ったり、物理の法則を超えたような走り方をすればリアタイヤはスライドしますが、そうでもしなければ基本はほぼニュートラル。そこから先ではじわじわとリアが滑りはじめたりはしますが、前後のアシのバランスがいいせいか、その動きは比較的穏やかで、動きを取り戻すのにもそう難儀したりはしません。
元気のいい走りにも結構しっかり応えてくれますが、乗り心地もしっとりしなやかだし、GR86と比べればグランツーリスモ的な大人っぽい味わいの濃いモデルです。
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【GR86の乗り味】コーナーでノーズがスパッと入る。腰の軽さが気持ちいい!
ならばGR86のほうはどうかというと、こちらはフロント側がやわらかめでリアが硬め、フロントで素早い回頭性を稼ぎながらしっかりフロントタイヤを設置させ、間髪入れずにリアタイヤの動きを誘発させる感じです。つまりリアタイヤの動き、つまりスライドを楽しみやすくする方向性ですね。
コーナーの入り口でのノーズの入りは鋭く、フロントタイヤへの荷重のかけ方次第ではほとんど遅れることなくリアタイヤがスルッと遊泳をはじめます。アクセルオンによるパワースライドもしっかり受け付けてくれます。タイヤは滑りながらも絶妙にグリップしているので、滑りはじめの動きにヒヤリとすることはないし、その先のコントロールも慣れれば危なげなく楽しめる。そうした後輪で曲がっていく感覚を満喫するには最高のパートナーといえるでしょう。
こうした限界域でのお話は発売前の生産型プロトタイプをサーキットで走らせたときに体験したことですが、ナンバーがついた生産車両で箱根の山を普通に走ったときでも、両車の性格の違いははっきりとわかりました。
BRZでは軽くブレーキングして荷重を前に送ってから曲がっていたコーナーを、GR86はアクセルオフだけでスルッと曲がっちゃうようなところがあったからです。安定方向のBRZに対して腰の軽いGR86という性格付けは、見た目からは想像できないかもしれないのですが、それくらいはっきりしています。
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【まとめ】刺激的なスポーツカーをリーズナブルに買える日本は最高!
もちろんどちらを選ぶかはお好み次第。僕は今ならBRZのほうにより強く惹かれますが、10年少々前なら間違いなくGR86を選んだことでしょう。
なぜならクルマの楽しみ方が、あのころと今では少し変化しているから。以前はワインディングロードにノーズを向けて元気良く走るのが大好きで、それこそがクルマの一番の楽しさだと思っているところがあったのです。
でも現在はそれ以外にもクルマを駆る楽しさがたくさんあることを(加齢のせいか大人になったからなのか)知って、つづら折りに差しかかったら喜んで元気良く走ることもあるけど、知らないうちにロングをゆったり走ることも何も考えずにその辺を流すことも大好きになっています。それにはBRZのほうが向いているな、と思ったのです。
いずれにしても、こうした本格的なスポーツカーが300万円くらいから手に入るというのは、実に素晴らしいこと。
マツダのロードスターもそうですが、こんなにリーズナブルな値段で出来映え見事にして刺激的なスポーツカーが買えるのは日本だけ。諸外国から見たら奇跡のようなお話といえるかもしれません。
もしあなたがお若いのであれば、その後の人生が絶対に変わるから、ぜひ。もしあなたがいい大人になっているのであれば、間違いなく日頃の気持ちの疲れをすっ飛ばせるので、ぜひ。
……そうなのです、トヨタ GR86/スバルBRZは、あらゆる世代にピタリとマッチするスポーツカー。ピクリと反応しているあなたを止める気持ちなんて、僕には微塵もありません。