欧州自動車メーカー勢がすべてEVシフトに賛同していない件【カープレミア編集長のEV談義Vol.12】

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今回は、あまり報道されていなかった、欧州自動車メーカー勢がすべてEVシフトに賛同していない件についてお話します。

そもそも、欧州自動車メーカー勢がすべてEVシフトに賛同していない

「日本の自動車メーカーはEVシフトが遅れている、欧州の自動車メーカーはみんなEVシフトしているのではないか」という方、すみません、それは違います。そもそも、欧州自動車メーカーがみんな、EVシフトに全賛同しているわけではないのです。

「自動車メーカーが全体的にEVにシフトしはじめた」といわれていますが、そのEVシフトが決定づけられたイベントは特にないまま現在に至っています。このEVシフトの源流をたどっていくと、興味深い出来事が見つかりました。

それは、通称「COP」と呼ばれる「気候変動枠組条約締結国会議」です。このEV談義でも過去に取り上げた会議体です。

「COP26」とも呼ばれる、第26回気候変動枠組条約締結国会議(2021年10月31日〜11月13日開催)では、政府関係者がパリ協定 (談義Vol.1で解説)の実現に向けて、開催地の地名をとった「グラスゴー気候合意」と呼ばれる、さまざまな地球温暖化対策が決まりました(本記事では、この詳細は割愛します)。

また、COP26では、日本、欧米を含む主要市場では2035年までに、全世界では2040年までに、すべての新車販売をZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=EV、FCVなど)にする共同声明が発表されました。

この共同声明には、国だけでなく、自動車メーカーにも署名をするよう求めていました。

2035年までにすべての新車販売をZEVにすることに賛同した自動車メーカーは、メルセデス・ベンツ、ボルボ、ジャガー・ランドローバー、フォード、GMなどでした。

署名しなかったのは、日本の自動車メーカー全社、フォルクスワーゲン、ステランティス、ルノー・日産・三菱連合、BMWなどの自動車メーカーでした。

トヨタ、フォルクスワーゲン、ルノー・日産・三菱連合、ステランティスは、全世界自動車販売シェアトップ4です。この四天王が共同声明に賛同していなかったのです。

このこと、たしかTVニュースや新聞では報道されていないような気がします。

四天王は、EVシフトに慎重だったのです。

ただ、誤解していただきたくないのは、共同声明に賛同しなかっただけで、反対はしていないという点です。署名していない自動車メーカーからは、しっかりと魅力的な新型電動車を世に送り出されています。

BMWのトップは反発

2022年10月20日、ロイターは、BMWのオリバー・ツィプセ取締役会長が、同月19日に、ICE(内燃機関車=ガソリン車・ディーゼル車)が廃止に向かうと自動車市場から「値頃な車」をなくすことになりかねない、多くの人にとって手が出なくなる恐れがあると警告したという記事を公開しています(出典:ロイター)。

日本のマスコミがこれを報じたかどうかは確認していませんが、少なくとも大きく報道はされていません。

ロイターは「BMWはあえて内燃エンジン車生産終了の日程は設けていないとし、同社としては野心的な自動車規制は支持しているものの、政治主導で内燃車が無理やり禁止される流れには賛成しかねるとした。(原文ママ)」と伝えています。

BMWは、EVに消極的ではありません。ですが『iX』をはじめ新型EVを発売していますし、EV販売目標を高く設定しています。

このロイターの記事のポイントは、欧州だけのことではないというところです。全世界でみて、ICEをなくすことは危険だという警鐘を鳴らしているに過ぎないので、BMWがEVシフトに反対をしている、というような勘違いはしないようにしてください。

一方聞いて沙汰するな

筆者がジャーナリストとして記事を書いたり、セミナー講師と話すときに気をつけていることは「一方聞いて沙汰するな」です。

今から15年くらい前のNHK大河ドラマ『篤姫』で、宮崎あおいさんが演じた篤姫のセリフだったのですが、ほかの名言を引用しただけなのか、定かではありませんが…

この意味は、きちんと両者から話を聞きなさい。どちらの言い分もきちんと理解した上で、公平に判断しなされ、というものですが、筆者は良い意味で拡大解釈しています。

何か物事の推進があるときには、その逆や推進をとどまらせようとする何かが、多かれ少なかれ必ず働きます。推進側だけを見て自分も推進するのではなく、逆の動きや反対意見を見た上で、自分がどうするかを決めたり、人に伝えたりするほうがいい、というのが筆者の考え方です。ただの主観的な感想、インプレッションなら別ですが。

『EV談義』シリーズでは、EVシフトの裏側や反対意見にスポットライトを当てた内容が多くなっているのはこのためです。

重ねて申し上げますが、筆者はEVシフトに反対はしていません。ただ、全力で賛成ではありません。条件付き賛成です。ちなみに、筆者はEVも好きです。EVで四国遍路を走破した物好きですから。

(あとがき)
この記事、当初の予定では「EV大国の不都合な真実」という見出しを用意していましたが、長くなりますので次回にお伝えしたいと思います。

(文:宇野 智・画像:Adobe Stock)
※この記事は、2022年3月時点での情報で執筆しています。

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