試乗レポート「マツダ ロードスター990S」これは後世に名を残す大きな価値のある名車だ(嶋田智之)

クルマを選ぶ 試乗記

2022年1月、現行型NDロードスターの一部改良時に追加された990Sは、30年以上もロードスターが追求してきた『人馬一体』の気持ち良い走りをいっそう深く味わえるモデルとして大きな話題になりました。その990Sに嶋田氏が試乗。その魅力をお伝えします。

2022年1月、ロードスター990S発売

おそらくこの記事が公開される頃にはだいぶ前の話になっちゃっているかもしれませんが、2022年の秋にマツダ CX-60に試乗し、レポートさせていただきました。その中で僕は、CX-60のコーナリングについて賞賛しつつ、こんな風に記しています。

『マツダ ロードスター990Sにも採用されているキネマティックポスチャーコントロールという、Gが強めにかかっているときにリアの内輪側のブレーキにちょっと制動をかけて荷重をコントロールしてタイヤを強く接地させ、クルマの姿勢の安定性と旋回性を高める機構が備わることが、しっかり威力を発揮している感じです』

そのキネマティックポスチャーコントロール(以下、KPC)というものの仕組みがどういうものかは理解しているし、その効き目もCX-60で体験することができました。が、どういうわけかずっと巡り合わせがよろしくなくて、その時点ではKPCが最初に投入されたロードスターに試乗することができていませんでした。この仕事をやっていてスポーツカー好きなのだから、誰よりも早く乗ってみたいと思っていたにもかかわらず。

けれど、ついにチャンス到来。クルマと僕のスケジュールがバッチリ合い、念願叶ってKPCの備わったロードスターに試乗することができたのです。それも特別仕様車という扱いながら事実上の最新グレードともいうべき990S、です。

僕は音に聞こえたヘタレもヘタレなのでこう寒くなってしまうとトップを開け放って走るなんてとても考えられませんが、でもいいのです。一般道、高速道路、峠道とあらゆるシチュエーションで、1,200km少々走ってきました。

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歴代ロードスターは、どんなモデルだったのか

誤解なきように申し上げておくと、KPCが備わる以前の現行モデル、クルマ好きの多くから『ND』という型式で呼ばれることの多い4代目ロードスターには、何度か試乗をしています。

最初は2015年、NDが国内デビューした直後だったでしょうか。もちろん初代のNA型、2代目のNB型、3代目のNC型も何度となく走らせてきていて、その進化の様子などもリアルタイムで体感してきています。

最初のロードスターであるNAは、とにかくヒラヒラとした軽快な身のこなしが楽しく気持ちいいクルマでした。刹那的なスピードよりも心浮き立つフィーリング。まさしく開発のキーワードとなった『人馬一体』をそのまま体現したスポーツカーでした。

2代目のNBは、ざっくりいうならNAの発展版。強みを伸ばし、弱いところを補ったようなモデルでした。

3代目のNCはどうかといえば、ちょっとばかり路線変更。ハイスピード化、ハイパフォーマンス化がグッと進みます。それは必ずしも悪いことではないのですが、ただそのあたりを普通に走っているだけでも楽しいと感じられるようなNAやNBの持ち味は、かなり薄れてしまいました。そのぶん飛ばしたときの面白さは格別でしたけれど。

『人馬一体』を色濃く味わえる、現行型ロードスターのベースグレード

ならばNDはどうなのか。しっかり元の路線に戻りました。それもかなり洗練されたかたちで。パワーは40ps近くドロップしていますが、最も軽いモデルで較べるとNCからマイナスすること100kg。パワーやスピードを追求するのを適度なところでヤメて、軽やかであることを選択した、ということですね。その乗り味はまさしくNAと同じく『人馬一体』。ロードスターはどうあるべきかを熟考したうえで、原点に立ち返ったのです。

そこに軸足を置いて考えてみたら、いくつかあるロードスターのグレードの中でもっとも『らしい』のは、いちばんベーシックな『S』であるように思えたものでした。いうまでもなく試乗しての印象です。

スポーツ性が高くなればなるほど想定するスピードレンジも高くなるので、当然ながらシャシーは締め上げられることになります。それにともなって乗り心地は硬くなり安定感も増し、例えば『S』ではヒラリと身を翻して気持ちいいと感じるコーナーでも、『RS』では安定感が先立ってさほど面白味を感じないというかどうってことのないコーナーに感じてしまうというか、そういう違いが当然のごとく生じることになるわけです。

いや、安定感というものが悪いというわけでは全然なく、両車の狙いが少々異なるということ。そしてここで述べているのは、あくまでもドライバーに伝わるフィーリングのお話、です。

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マツダが長年こだわる『ロール』のさせ方

そもそもロードスターというクルマは、スピードを追求するというよりスピード『感』や操縦そのものを楽しむための乗り物。ライトウエイト・スポーツカーというのは宿命的にそういうものであり、マツダはその分野での最適解を初代であるNAの時代から延々と模索し続けてきています。

しかもNDでは徹底した軽量化に励み、不満も不足もないとはいえたかだか132psの1.5リッターというエンジンを搭載。狙いがめくるめくスピードなんかにあるわけじゃないってことは、それだけで察することができますよね。

コーナリングに関しても、それはまったく同じなのです。コーナーをどれだけ速く駆け抜けられるかということよりも、コーナーでどれだけ気持ちよく曲がれ、どれだけ楽しい気分になれるのか、ということが重要。そういうクルマであることがもっともクッキリとして感じられるのが、スタビライザーなし、LSDなし、ボディ下面の補強なし……と、ないない尽くしの『S』なのです。何せ日常の移動といってもいいようなときですら、「あっ、気持ちいいな」「楽しいな」と感じられる瞬間が何度となくあるのです。飛ばさなくても爽快なスポーツカー、なのですよ。

ちょっとマニアックな話になりますが、実はマツダは車体のロールのさせ方に、長いことこだわってきました。コーナーを曲がっているときに車体が傾くことを『ロール』と呼ぶわけですが、それが対角線を軸にして働くこと、例えば右コーナーであればコーナー内側となる右の前輪とコーナー外側になる左の後輪とを結んだ線を軸にしてクルマをロールさせていくことが、ヒラリとした動きを生み出します。その動きをバランスよく変化させていくことが、ロードスターの曲がる楽しさを作り上げているのです。

が、クルマは左右だけじゃなくて前後にも動くもの。例えばブレーキを踏んで減速しているときは前輪に荷重が載って、フロントサスペンションが縮み、車体も前側が沈みます。逆に後輪側は荷重が抜けていくにしたがってリアサスペンションが伸び、車体が後ろ側から浮き上がろうとします。そのとき同時に横Gが掛かっていたらどうでしょう?ただでさえ荷重が載ってない後側の2輪なのに、内側のタイヤに掛かる荷重はさらに軽くなってタイヤが路面に接地する力も弱くなり、通常、クルマの動きは不安定な方向へと向かいます。速度によっては後輪が横Gに絶えきれず滑り出す、なんてことにもなりかねません。

ロードスターのサスペンション特性のメリットを引き出すKPC

ロードスターのリアサスペンションはよく考えられていて、ブレーキがかかって制動力が生まれると、逆に車体を引き下げようとする力が働くよう設計されています。その特性をさらに活かしてコーナリングにつなげようというのが、2022年1月以降のすべてのロードスターに備わったKPCなのです。

どういう仕組みかというと、ある一定以上の横Gが発生すると、そのGの大きさに応じてコーナー内側の後輪に微妙にブレーキをかけて、対角線上に発生するロールを抑制しつつリア側を沈み込ませ、後輪の接地性を高めて姿勢を安定させようというもの。もともと備わっていたダイナミック・スタビリティ・コントロール(以下、DSC)のシステムを利用し、基本プログラムを変更することで効果を生み出しています。コーナリング性能を高めたり安定を強めたりするにはほかにも手段はあるわけですが、0.1グラムすら重くならない方法を採用するあたり、実にマツダらしいなと感じます。素直にリスペクト、です。

そして990Sは、ベースモデルである『S』をベースとしていて、以前からオプション設定されていたレイズの鍛造ホイールを標準で装着。『S』のホイールより1本あたり800g、合計3.2kgもバネ下重量を軽くさせています。バネ下とはサスペンションから下というか先というか、アーム類やブレーキ、タイヤ、ホイールなどを指し示すもの。このエリアの軽量化がクルマの運動性能を向上させることは、モータースポーツの分野でも実証されています。バネ下を1kg軽くすれば、それはバネ上──つまり車体──10kgの軽量化に匹敵するとすらいわれることがあるくらい、はっきりと効果になって表れます。

それにともなって大きなキャリパーを入れられるようになったため、これまた一部のグレードにオプションで設定されているブレンボのアルミ製対向4ピストンキャリパーと15インチディスクが採用されています。コイルスプリングのレートを少し高め、逆にショックアブソーバーの伸び側の減衰を少し緩めるといった、サスペンションのチューニングの変更も行われています。そして電動パワーステアリングの味つけ変更も。

軽やかな走りを幅広い速度域で味わえる990SはNDのベストチョイス

違いは走り出してすぐ、街乗りの段階から体感できました。バネ下の軽量化とサスペンションのチューニングが利いて、有り体にいうなら乗り心地がよくなっているのです。しっとり感、しなやかさといったあたりが浮き立った感じなのです。高速道路では、心なしか直進性もよくなっているように思えました。

でも、やっぱり際立つのはコーナリング。もともと『S』はスイッスイッと軽やかにしなやかに曲がってくれて気持ちいいクルマではあったのですが、より幅の広い速度域でその気持ちよさと安定感を得られるようになった印象です。スウィートなゾーンが大きく広がっているのです。

KPCは後輪左右の速度差をリアルタイムに検知することで作動する電子制御システムなのですが、先ほどお伝えしたとおりDSCのシステムを活用して制御を行うため、DSCのオンとオフを切り換えることで効果の有無を確認することが可能です。もちろんDSC/KPCがオフの状態でも充分に楽しいし気持ちいいのですが、オンにするとクルマが路面にグッと押し付けられたように安定し、自在感が膨らんだようにすら感じられます。より小さく鋭く曲がれているのでしょうし、コーナリングスピードも上がっているのでしょうが、それ以上に路面と密接にコンタクトしている感覚の強さが際立って、安心してアクセルペダルを踏んでいけるのが素晴らしい。

もともとのNDの美点をスポイルする要素は何もなく、むしろそれを大きく膨らませているような印象。リアのスタビライザーやLSDを備えたグレードでミニサーキットなどを走るのも楽しいとは思いますが、普段使いでロードスターに乗るのであれば、990Sは間違いなくベストチョイスです。

990Sはスポーツカー好きへのマツダからの贈り物

とはいえ、990Sはベースになった『S』と同様に、車重990kgを実現させるためにセンターディスプレイやインフォテインメントシステムも備わっていません。ナビゲーションシステムをつけたいと思っても、重量増を嫌ってハーネスすら排除されているのでオプションで追加することもできません。そこを我慢するだけの価値はあるのですが、めちゃくちゃ硬派なモデルです。

デビューから8年となり、そろそろ次期型の登場を考えるでもなく考えている人もおられるかと思いますが、具体的な話が飛び交っているということはなく、すべてが分厚いヴェールの向こう側。もしかしたら純粋な内燃機関のみで走るロードスターは、このNDが最後になるかもしれません。

次のNE型(?)ロードスターには何らかの電動化が施されたとして、それはそれでバッテリーを積むことによって、低重心を活かした『曲がるのが楽しいスポーツカー』に仕上がってくるでしょうが、真の軽やかさというのは真の軽さにしか宿らないのです。

もしかしたら本当にヒラリヒラリとした身のこなしを味わえる人馬一体のロードスターは、これが最後になってしまうのかもしれませんね。そうであれば、その随の随といえる990Sは、歴史的にも大きな価値のある名車として後世に名を残すことになるでしょう。間違いなく。それが300万円を下回る価格で手に入れられるのはスポーツカー好きにとって何よりの贈り物なんじゃないか? と強く強く感じています。

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※この記事は、2023年1月時点での情報で執筆しています

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