マツダの新世代ラージ商品群の第1弾モデルとして2022年9月に登場したCX-60。最大のトピックは駆動方式がFRおよびFRベースの4WDになったこと。そして他社の多くのモデルが排気量を小さくするダウンサイジング戦略を取る中で大排気量エンジンを搭載したこと。ここにはマツダの確固たる意志がありました。そんなCX-60を自動車ライターの嶋田智之が詳しくリポートします。
燃費性能を高めるために排気量を増やすってどういうこと?
ダウンサイズエンジン、ダウンサイジングターボ……なんて言葉を耳にしたことはありませんか?
主として燃料消費を抑えるためにエンジンの排気量や気筒数を減らし、足りなくなったチカラをターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給機の働きで補うという考え方のエンジン、です。
記憶に間違えがなければ、確か2005年頃のフォルクスワーゲンのTSIエンジンあたりから具現化されて、現在ではほぼメインストリームのようになっている、といっても過言じゃありません。
が、そうした潮流にキムタクばりに「ちょ!待てよー!」と言い放つようなエンジンを、マツダが送り出しました。
CX-60に搭載されている3.3リッターの直列6気筒ディーゼルターボは、排気量と気筒数を大きくしたことで生まれるゆとりを、パワーやトルクもさることながら、むしろ燃費に活かしていこうという考え方です。
2年くらい前からドイツで似たような動きが見られるようになりましたが、それは1.5リッターターボとかにダウンサイズしていたのを2リッターターボに戻してマイルドハイブリッドと組み合わせるとか、2リッターターボの効率を徹底的に追求するとか、そういう状況。大排気量のマルチシリンダーエンジンを新たに開発するなんて話は聞いたことがありませんでした。
300kmの試乗で20.4km/Lの実燃費を達成
おそらくこうした動きは、燃費の良し悪しをはかる数値がより現実のクルマの使い方に近いテストによるWLTPという国際基準で表記されるようになったことを受けてのものだと思うのですが、そのWLTPの数値でマツダのこのエンジンは、48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせで21.1km/Lという好燃費。
同じマツダの2.2リッター直列4気筒ディーゼルターボを積むCX-5よりも、それどころか1.8リッター直列4気筒ディーゼルターボを積むSUVのディーゼル搭載車のボトムとなるCX-3よりも、優れた数値です。
僕も今回、大まかに高速道路6割、一般道3割、ワインディングロード1割くらいの割合で300km強を走ってきたのですが、最終的には19.1km/Lまで落ちちゃったものの、一時は20.4km/Lをキープできていたほどでした。
カタログデータでマイルドハイブリッドなしのモデルと較べれば1.3km/Lほど助けられている計算にはなりますが、それでも排気量3,283ccの直列6気筒なのに、です。これってすごくないですか?
いや、マツダCX-60の魅力はもちろん燃費だけではないのですが、ちょっとビックリしたもので思わず先走っちゃいました。
駆動方式をFRにしたラージ商品群の第1弾
CX-60は、これから展開が進んでいく『ラージ商品群』と呼ばれるシリーズの第1弾として発表されたモデルです。
スタイリッシュであることが強みのひとつであるマツダなんだからもっとカッコいい呼び方を考えたら良かったのに……とは思うけれど、わかりやすいのは確かですね。つまりは車体の大きめな上級車種のラインナップ、というわけです。
プラットフォームは従来のものとは系統の異なる新規開発。しかも一般的な前輪駆動ではなく、エンジンをフロントへ縦置きに配置する後輪駆動と後輪駆動ベースの4WDです。
そこに搭載されるパワートレーンはほとんどが新開発といえる数種類で、世界各国の仕向地に合わせたバリエーションをそれぞれ提供していく旨がアナウンスされています。
日本仕様は、冒頭からお伝えしている3.3リッター直列6気筒ディーゼルターボ+マイルドハイブリッド、3.3リッター直列6気筒ディーゼルターボ、2.5リッター直列4気筒ガソリン+プラグインハイブリッド、2.5リッター直列4気筒の4種類が用意されることになり、その中でいち早く発売が開始された3.3リッター直列6気筒ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドが今回の試乗車でした。
e-SKYACTIV D 3.3と呼ばれるこの直6ディーゼルターボと48Vマイルドハイブリッドを組み合わせたユニットは、内燃エンジンの方が254psと550Nm、エンジンとトランスミッションの間にあるモーターの方は16.3psに153Nm。
例えばBMWの3リッター直6ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドがシステム全体で340psと700Nmを発揮していることを考えると数値は控えめで、開発の狙いが違うところにあることが推し量れます。
組み合わせられる8速オートマティックのトランスミッションは一般的なトルクコンバーターを持たず、電子制御式の湿式多板クラッチを採用している新開発のものですが、これは後輪駆動ベースの4WDとすることと適切なドライビングポジションを得ることを両立させるためのスペース効率から考え出されたものでしょう。そう考えると、ドライバーとクルマの人馬一体を旨とするマツダらしいな、と思えてきます。
アクセルを強く踏み込まなくても気持ちいいエンジン
そう、CX-60も徹頭徹尾『マツダ』なクルマでした。エンジンのスペックは控えめだし、公式Webを見ても何かが『スポーティ』という言葉で説明されていたりすることはないのですが、走らせてみたらとっても楽しい、とっても気持ちいい。
例えばパワーユニット。アクセルペダルをそんなに踏み込まなくてもググッと踏み込んでも、しっかり心地好いのです。あまり存在を主張しないモーターが効いているのか、ゼロ発進のときも含めアクセルペダルを踏んだ瞬間から遅れることなくクルマがスイッと前に進んでいくし、1,500rpmで最大の550Nmを発揮する内燃エンジンだから回転を上げなくても充分に力強く、その領域でのたっぷりしたゆとりがとても心地好い。
街中や高速道路では、おかげで右足にチカラを込めるような走り方をしなくても、実はかなり満足できちゃったのでした。僕が走っているときの燃費が良かったのは、だからだったのかもしれません。
けれど回転を上げれば上げたで、また気持ちいいのです。吹け上がりは望外に滑らか。しかも回転が上がっていくに連れて細かくツブがそろっていくような上質な感覚まで伴っています。
トップエンドに向かって伸びていくときの感覚やチカラの盛り上がり感、巧みに調律されたサウンド、そしてそれらを小気味良く素早くつないでいく新しい8速ATのダイレクトな変速感などは、まさしく爽快ともいうべきもの。高速道路のETCゲートを抜けたあと一発目の加速、あるいはワインディングロードで元気良く走っていたとき。僕はおそらくニヤついた顔をしていたことでしょう。
パワーもトルクも1.9トン強の車重に対して不足している感じはまったくないし、何よりフィールが想像していたより遥かに気持ちいい。直6ディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッドの出来映え、かなり秀逸です。
シャシーの方もかなりのものでした。フロントにダブルウイッシュボーン、リアにフルマルチリンクというサスペンションを採用したこのシャシー、基本的にはちょっとばかり硬めな印象だし、肌の荒れた場所や大きめの目地段差を踏み越えるときなどには路面の主張を正直に伝えてきたりもしますが、硬さの中にもしなやかな部分があるというかなんというか、そんなときにも「これはイヤだな」と感じることはありませんでした。
先に試乗した同業の知人から、低速走行時などでの小さなクルマの上下動が気になるようなことを耳にしていて身構えていたのですが、僕は気になりませんでした。……鈍いのかな?とにかく、そうした個人の感覚で左右されるレベルなのだと思います。
が、彼もまったく同じことをいっていたのですが、速度域が高くなってからの、つまり高速道路をクルージングしているときなどのビシッと定まったフラット感。硬めだけれど疲れの少ないシートのおかげもあって、なかなか快適に移動ができました。300km強というのはもちろん1日で走った距離なのですが、ちっとも疲労感はありませんでした。
CX-60の真骨頂。それはコーナリング
が、一番『かなりのもの』と感じたのは別の部分、コーナリングです。ワインディングロードを走って楽しいSUVランキングみたいなものがあるとするなら、間違いなく屈指の存在といえる1台です。
ステアリングを切り込むと当然ながらクルマは傾き始めるわけですが、ロールの具合がかなり適切で、まずその動きがつかみやすい。そしてノーズが入っていくだけじゃなく、クルマ全体がしっかり向きを変えていく。そして狙ったとおりのラインの上を綺麗になぞって、気持ち良く立ち上がっていく。
アルファロメオ ステルヴィオのようなエンターテインメント性こそありませんが、その一連の動きはドライバーの意志をくみ取ったかのようで、ものすごく心地好いのです。
後輪駆動をベースにした4WDであることのメリット、そしてマツダ ロードスター990Sにも採用されているキネマティックポスチャーコントロールという、Gが強めにかかっているときにリアの内輪側のブレーキにちょっと制動をかけて荷重をコントロールしてタイヤを強く接地させ、クルマの姿勢の安定性と旋回性を高める機構が備わることが、しっかり威力を発揮している感じです。
しかも、パワートレーンの気持ち良さもシャシーの気持ち良さも、飛ばしているときだけ味わえるたぐいのものじゃないし、腕利きドライバーじゃなきゃ楽しめないたぐいのものでもありません。誰でもそれぞれの走らせ方をしていて、自然に満喫できるものなのです。そこが何より素晴らしい。マツダが長年かかげてきた『人馬一体』とは、そういうものなんですよね。
シフトアップ時の変速ショックはやや気になる
ただし、クルマ全体を見渡してみて、ちょっと気になるところがないわけでもないんです。
ひとつは新しい8速オートマティックのトランスミッション。発進してから巡航に入るまで、街中などでゆっくり加速していくときに1,200回転とか1,300回転とかでシフトアップしていくのですが、そのときに小さいけれどはっきりした変速ショックを感じます。
それともうひとつは、巡航時に負荷が減ると街中でも高速道路でもエンジンが停止してコースティング、つまり空走状態に入ります。それ自体はいいことなのですが、その状態から加速したくなったり、もう少しチカラが必要になってアクセルを踏み増ししたりしてエンジンが再始動すると、エンジンのチカラが路面に伝達される直前に微かにつまずくような感触が伝わってくることが何度となくありました。
僕自身が50年前のクルマを日頃のアシにするようになってから振動や異音のたぐいに呆れるくらい敏感になっているからなのかもしれませんが、「煮詰まりきってないな」という印象を感じたのは確かです。このあたりは制御系などの熟成が進めば解決されていく問題なのだとは思いますけれどね。
輸入車のプレミアムSUVにも引けを取らない完成度
そこを除けば、CX-60、かなりレベルの高いクルマだと感じました。フロントフードが長くて後輪に重さが乗っているようなFRらしい車体も、マツダらしく面の抑揚が美しいフォルムで構成されていて、素直にカッコいいなと思えます。
広々とした室内も、同じ色でも素材が異なれば色味の見え方が変わることを念頭に置いた異素材の使い分け、カラーコーディネートなどは抜群に綺麗だし、クオリティそのものも高いし、シンプルな水平基調に見えるダッシュボードの中に必要なものは物理スイッチとして残した運転席周りは、視覚的にも機能的にもドライバー想いです。ルックスの部分でも使い勝手の部分でも、レベルは高いです。
今、素直に「いいプレミアム系SUVが日本から誕生したんだな」なんて感じているのです。このクラスは輸入車にレベルの高いモデルが多かったわけですが、CX-60、少しも遜色ないと思います。
もしあなたが上級SUVを狙っていていくつかの輸入車の名前が頭の中にあるのなら、その前にまず、このCX-60の試乗をしてみることをおすすめいたします。
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※この記事は2022年10月現在の情報に基づいています。