世界で通用するコンパクトカーとして新規開発されたのが、1999年に登場した初代ヴィッツです。その3代目は、のちにハイブリッドモデルを追加するなどトヨタらしいベーシックカーとして10年もの長きにわたって販売されました。今回は燃費と居住性の両方で多くのユーザーに支持された3代目ヴィッツを解説します。
【サマリー】優れたパッケージングと燃費性能を武器にコンパクトカー市場をリード
2010年12月に発売された3代目ヴィッツは、初代、2代目がともに評価された居住性と走りの良さ、そして何より燃費性能に磨きを掛け、ライバルひしめくコンパクトカー市場に投入されました。Bセグメントカーのライバルは、ホンダ フィットやマツダ デミオ(後のMAZDA2)、スズキ スイフトなど。いずれも海外市場も見据えた世界戦略車です。
ヴィッツの特徴である優れたパッケージングは、先代に対し室内長や荷室の奥行きを拡大するなどさらなる余裕を確保。人気は上々でしたが、2011年12月にデビューしたハイブリッド専用車、アクアはそれを上回る人気モデルとなりました。そこで2017年に待望のハイブリッドを搭載。名実ともにトヨタを代表するコンパクトカーに成長しました。
【外観スタイル】初期モデルはすっきり、マイチェン以降はキリリと引き締まったフロントフェイスを採用
エクステリアデザインは、初期モデルと2014年のマイナーチェンジ後で大きく変わります。初期モデルはアジリティ(軽快さ)と上質感をコンセプトとし、優雅さや存在感を際立たせたものでしたが、マイチェン後はトヨタ独自の「キーンルック」を表現した、エッジの立ったスポーティなデザインとなりました。
さらに2017年のマイナーチェンジでは、ダイナミックさや低重心感が与えられたワイド&ローなデザインに進化しました。3サイズは、1,695mmの全幅、1,500mmの全高は変わりませんが、初期モデルでは3,885mmだった全長は、マイチェン以降は3,945mmまで拡大しました。なお、一部の限定モデルを除き国内に導入されたのは5ドアのみとなっています。
【インテリア】エクステリア同様、マイナーチェンジでデザインを変更
インテリアデザインの特徴は、先代までのセンターメーターを一般的な運転席前の位置に改めたことでしょう。高い位置にあるセンターメーターは視線移動量が少ないのですが、メーターが遠く、表示が読み取りにくいという欠点もあります。その点、3代目は運転者に近いため視認性が良く、ほかのクルマから乗り換えても違和感がありません。
インパネの造形は、前期型は中央から助手席側までにパッドを配置したワイド感のあるものでしたが、マイチェン後はセンタークラスターを独立させたコックピット感を感じさせるものとなりました。
内装色はグレードにより、黒系や茶系、ベージュ系などのカラーを用意していました。
【走り・燃費】1Lと1.3L、1.5Lガソリンエンジンを基本に、2017年のマイチェンでハイブリッドを追加
搭載されるエンジンは、自動車税が安い996cc直列3気筒(69馬力/9.4kgm)と、高い燃費性能を誇る1.3L直列4気筒(95馬力/12.3kgm)、最上級となる1.5L直列4気筒(109馬力/14.1kgm)の3タイプです。組み合わされるトランスミッションはCVTを基本に、1.5Lを搭載するスポーツグレードのRSにのみ5速MTも用意しています。
燃費性能は、年代により計測方法が異なりますが、1Lよりもアイドリングストップ機構を備えた1.3Lモデルの方が上でした。なお、2014年のマイナーチェンジではエンジンに手が加えられ、すべてのエンジンで燃費性能が向上しています。
注目のハイブリッドは、1.5Lガソリンエンジンにモーターを組み合わせたTHS IIを採用。これは基本的にアクアと同じものですが、ボディの重量がやや重いこともあり、燃費性能はアクアがわずかに勝っています。
【安全装備】先進安全装備を搭載するのは2015年の改良モデル以降
3代目ヴィッツは10年という長い期間販売されていたモデルなので、年式により先進安全装備の差が大きくなっています。初期モデルは先進安全装備の用意はなく、初めて搭載されたのは2015年6月の改良時です。
このときに、衝突回避支援パッケージの「Toyota Safety Sense C」が一部のグレードを除き標準装備されました。設定されたのは衝突被害軽減ブレーキと車線逸脱警報、オートマチックハイビームです。また2018年5月の改良では、衝突被害軽減ブレーキが昼間に歩行者にも対応し、踏み間違い防止機構が新設定されるなどアップグレードされています。
【グレード構成】幅広いグレードを用意。スポーツグレードの G’sやGRMNもリリース
基本のグレード構成は、ベーシックなF、上級のU、スポーティなRS、内外装にメッキ加飾などを施したJewela(ジュエラ)の4つです。このほか、価格を抑えたF MパッケージやRS Cパッケージ、アイドリングストップ機構を採用したスマートストップパッケージを用意していますが、ハイブリッドの追加時に1.5Lのガソリンエンジン車は廃止となりました。
発売当初の価格は106万〜179万円でしたが、先進安全装備が設定された2015年の改良時には115万3,637〜204万6,109円、ハイブリッドが追加された2017年は118万1,520〜223万7,760円となりました。
2011年9月の改良時に設定されたのがスポーツコンバージョン車の1.5RS G’sです。また、2013年には3ドアのターボ車のGRMNターボを200台限定で、2017年には1.8Lスーパーチャージャーエンジンを積んだ3ドアのヴィッツGRMNを150台限定で設定しました。
このほか、装備を充実させた特別仕様車も多数設定されています。
【マイナーチェンジ&改良一覧】外観まで変更する大幅改良は、2014年と2017年の2回実施
販売期間の長いモデルなので、多くの改良やマイナーチェンジを実施しました。大きなものは、外観を変更しエンジンの改良も行った2014年4月と、同じく外観に手を入れハイブリッド車を追加した2017年1月のマイナーチェンジです。
このほかにも一部改良として、2011年9月にアイドリングストップ機構搭載車を拡大。2012年5月には内装の質感を高め、2015年6月に先進安全装備を多くのモデルに標準化。2018年5月にはその先進安全装備をアップデートしています。
2014年には内外装のデザインを変更し、燃費性能もさらに高める
2014年4月に行ったマイナーチェンジでは、ヘッドライトからフロントエンブレムまでがV字につながったように見え、さらに大きな開口部を持つロアグリルを組み合わせたキーンルックを採用しました。これはスポーティでワイド感が強調されたデザインコンセプト(ファミリーフェイス)で、最初に採用されたのは2012年発売のCセグメントハッチバック、オーリスでした。
エンジンに大幅な手が加えられたのもこのマイナーチェンジ時です。1.3Lはハイブリッド車にも採用されるアトキンソンサイクル、クールドEGR、VVT-iEなどを採用し、当時世界トップレベルの38%の熱効率を実現。FF車の最高出力は4馬力アップの99馬力に高められ、アイドリングストップ機構をFF車に標準装備することで従来モデル+3.2km/Lとなる25.0km/L(JC08モード)を実現しました。また、1Lエンジンも圧縮アップや低フリクション化を、1.5Lにはアイドリングストップ機構を用意しています。
このほかにも、ボディのスポット溶接の増し打ち、床下補強材の大型化、ショックアブソーバーの改良、吸遮音材や制振材の追加などで走行性能と静粛性を向上。全モデルにVSC & TRCと緊急ブレーキシグナルを標準化しました。
内装では、インパネのデザインを変更し、助手席側に大型アッパーボックスを設定。運転席にコインポケットやカードホルダーを用意し、リアルームランプを追加するなど使い勝手が高められました。
2017年はキーンルックを洗練させリアデザインも変更。さらにハイブリッド車も追加
2017年のマイナーチェンジでは、前回導入されたキーンルックが変更されました。同じV字形のフロントマスクですが、ヘッドライトをグリルから独立させたことでより立体的な造形となりました。また、リアも水平基調のコンビネーションランプを採用しバンパーデザインも変更するなど、前回よりも大きなデザインチェンジとなりました。
メカニズムでの注目はなんといってもハイブリッドシステムの採用でしょう。これはアクアに搭載されているものと基本的には同じで、74馬力/11.3kgmを発揮する1.5Lエンジンに61馬力/17.2kgmのモーターを組み合わせることで、システム全体で100馬力の性能を実現。燃費はクラストップレベルの34.4km/Lを達成し、ライバルであるホンダ フィットに肩を並べました。
このほか、新構造のショックアブソーバーの採用やボディ剛性の強化も実施。安全装備では、坂道でのずり下がりを防ぐヒルスタートアシストコントロールを全車に標準装備としました。
【ヴィッツのおすすめモデル#1】クラストップレベルの燃費を実現し、安全装備も充実した2018年5月以降のハイブリッド車
優れた燃費性能を誇るトヨタのハイブリッドシステム、THS IIは2代目プリウスに搭載されたシステムをベースに改良が施されたもので、低速域ではEV走行が可能になるなど後のモデルと比較しても見劣りしません。
また、2018年6月の改良では歩行者対応の衝突被害軽減ブレーキやアクセルの踏み間違い防止装置を採用しました。なお、先進安全装備のToyota Safety Senseは、上級グレードのハイブリッドUやハイブリッドジュエラに標準装備されますが、ハイブリッドFはオプションとなっているので購入時には装備の有無の確認が必要です。
室内の広さは同じトヨタのアクアよりもわずかに広くなっています。その分、ハイブリッド専用車のような特別感は薄いですが、日常の買い物からロングドライブまで、幅広く使える実用車としての魅力を持っています。
【ヴィッツのおすすめモデル#2】2015年6月改良モデル以降の1.3Lガソリンエンジン搭載車
3種類のガソリンエンジンを搭載するヴィッツの中で、最も燃費性能がいいのはアイドリングストップ機構を装備した1.3L車です。JC08モード燃費で25km/Lというのはハイブリッドカーを除けば軽自動車を含めて当時のトップクラスで、1Lモデルよりも走行性能に余裕があるため、価格を含めれば日常の足としてベストな選択となります。
先進安全装備を採用したのは2015年6月の改良以降なので、ヴィッツで初めてキーンルックを採用した2014〜16年の中期モデルには先進安全装備が装着されるものとそうでないものがあります。
グレードは、ベーシックなF、上級のU、メッキパーツなどを装備したジュエルの3タイプ。パワートレーンは3グレードで同じなので走行性能はFでも十分ですが、先の先進安全装備はUとジュエルには標準で装備される一方、Fはオプションとなっています。中古車を選ぶときは年式だけでなく装備内容もしっかりと確認してください。
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【まとめ】中古車の数は豊富なので後悔しない選択を
ベーシックカーらしく高い実用性を持つヴィッツは、販売台数も多く中古車のタマ数も豊富です。中古車を選ぶときに注意すべきポイントは燃費を先進安全装備、そしてエクステリアデザインの好みでしょう。長く乗り続けるためには、特に先進安全装備の有無に気を付けて選んでください。
この記事は2022年9月の情現在報に基づいています。