EV10車種以上・総走行距離1万km以上を試乗したカープレミアマガジン編集長が、今あるEVの問題点と解決策、そして未来を自らの経験と知見から、独断と偏見で語る「EV」。今回は第5弾、前回お話したEV普及の前に立ちはだかる壁とその理由と背景の2点目、充電時間の問題と充電インフラについて語ります。
前回のEV談議は
充電時間が長いという高い壁
ICE(内燃機関車。ガソリン・ディーゼルエンジン)の給油時間はだいたい3〜4分。これに比べるとEVは圧倒的に充電時間の長さがネックとなります。ガソリンや軽油の給油時間は、燃料タンクの小さい軽自動車・大きい大型乗用車でも大差ありません(標準的なガソリンスタンドのガソリン給油速度は毎分30〜35L。ガソリンタンク容量は軽自動車の標準で30L、大型輸入乗用車で80〜100L)。
しかし、EVはバッテリー容量によって充電時間が大きく変わってきます。
「あれ?一晩充電すれば満充電にならないの?高速道路SAなどにある急速充電器なら30分で満充電になるんじゃないの?」
と思っていらっしゃる方がまだまだ多いようなので、この点を解説しながら、EVの充電に関する現在の状況をお伝えしましょう。
おもなEVのバッテリー容量
まずは、現在販売されているおもなEVのバッテリー容量を一覧にまとめます。この後に解説する、充電時間の計算の基準となります。
20kWh | 日産 サクラ(20kWh) 三菱 eKクロス(20kWh) |
---|---|
35.5kWh | Honda e(35.5kWh) マツダ MX-30 EV(35.5kWh) |
40kWh 台 | 日産 リーフ(40kWh) フィアット 500e(42kWh) |
50kWh台 | プジョー e-208(50kWh) プジョー e-2008(50kWh) シトロエン E-C4(50kWh) DS 3 クロスバック(50kWh) テスラ モデル3 スタンダードレンジ(54kWh) |
58〜66kWh | ヒョンデ IONIQ 5 無印(58kWh) 日産 リーフ e+(60kWh) 日産 アリア B6(66kWh) メルセデス・ベンツ EQA(66.5kWh) |
70kWh級 | アウディ e-tron 50(71kWh) トヨタ bZ4X(71.4kWh) スバル ソルテラ(71.4kWh) ヒョンデ IONIQ 5(72.6kWh) |
80kWh級 | BMW iX xDrive40(76.6kWh) ボルボ C40 リチャージ(78kWh) ポルシェ タイカン(79.2kWh) メルセデス・ベンツ EQC(80kWh) テスラ モデル3 ロングレンジ(79.5kWh) テスラ モデル3 パフォーマンス(82kWh) BMW i4(83.9kWh) |
90kWh級 | 日産 アリア B9(90kWh) ジャガー I-PACE(90kWh) ポルシェ タイカン Battery Plus(93.4kWh) |
100kWh以上 | テスラ モデルX(100kWh) テスラ モデルS(100kWh) BMW iX xDrive50(111.5kWh) |
EV用バッテリー充電器の出力
続いて、バッテリーを充電する機器の出力(kW)がどうなっているのかをお伝えします。
日本政府は、2035年代までに新車販売の100%を電動車とする(電動車=BEV/バッテリーEVとは解釈しづらいが)という方針を打ち出しています。EVの車両価格が安くならない限り、毎年毎年400億円以上の補助金を政府は用意し、各自治体も用意しないといけなくなることは容易に推測できます。
EVの車両価格は安くならないのか?
現在販売されているEVの車両価格の約4割が、バッテリーの価格とされています。バッテリー価格の高さが、EVの車両価格の高さに直結しています。
普通充電器の電圧・電流・出力一覧
電圧 | 電流 | 出力 | |
---|---|---|---|
普通充電 | 100V | 15A | 1.5kW |
200V | 14.5A | 2.9kW | |
30A | 6.0kW |
普通充電は、一般家庭で使える充電と、商業施設や宿泊施設に備える普通充電のことをいいます。施設にある普通充電は、ほとんど200V・3.0kWのものとなります。なお、日産 サクラなどバッテリー容量が小さいタイプでは、60kWの高出力器で充電しても、バッテリー保護のため出力が2.9kWに制限されます。
急速充電器の出力一覧
出力 | 設置場所 |
---|---|
20kW | 道の駅・コンビニ |
30kW | 道の駅 |
40・44kW | 道の駅・高速道路SA・PA・ディーラー |
50kW | 高速道路SA・PA・ディーラー |
72kW | テスラスーパーチャージャー(小型) |
90kW | 東名海老名SA・首都高大黒PA |
120kW | テスラスーパーチャージャー(最も多い) |
150kW | アウディ・ポルシェディーラー(順次拡大) |
250kW | テスラスーパーチャージャーV3 |
現在の日本国内のEV急速充電器は、40・44kWが主流ではありますが、交通量が少ない地域を中心に古い20・30kW器がまだまだ多数残っている状況です。50kW以上は、まだまだごく一部です。テスラスーパーチャージャーは、テスラ車しか充電できませんし、50kW以上では、車両側の受電能力が対応していないモデルが多々あります。
充電時間の求め方
「充電時間はカタログを見ればいい」と言われればそれまでですが、EVライフを始めると、メーターに表示されるSOC(「State Of Charge」バッテリー残量)から、次の走行に必要な充電時間を計算することができます。
この計算方法は、義務教育で習った、電流・電圧の関係式と同じです。
例えば、ミドルクラスのEVで、バッテリー容量が60kWで、SOC10%(だいたい、残航続距離が50〜70kmぐらいになるでしょう)で満充電になるまでに必要な時間は、次のとおりです(この場合、満充電までの充電量は、60kWh × 90%=54kWh)。
普通充電器の場合
出力 | 充電所要時間 | |
---|---|---|
普通充電 100V | 1.5 kW | 36 時間 |
普通充電 200V | 2.9 kW | 19 時間 |
6.0 kW | 9 時間 |
※理論値
計算式:満充電までの充電量 ÷ 出力 = 充電所要時間
急速充電器の場合
公共の急速充電器は、充電時間が最大30分と定められています。充電器の出力別に、30分で充電できる充電量と、増加するSOC、充電した分の電力で、電費6.5km/kWhで走行した場合の航続距離を試算してみました。
出力 | 充電量 | 増加SOC | 電費6.5km/kWhでの増加航続距離 |
---|---|---|---|
20 kW | 10 kWh | 17% | 65 km |
30 kW | 15 kWh | 25% | 98 km |
40 kW | 20 kWh | 33% | 130 km |
44 kW | 22 kWh | 37% | 143 km |
50 kW | 25 kWh | 42% | 163 km |
90 kW | 45 kWh | 75% | 293 km |
※理論値
計算式:急速充電器の出力 ÷ 2 = 充電量
「あれ?高速道路のSAで充電しても、130kmぐらいしか走行できないの?」と思われた方、そのとおりです。
ちなみに、60kWhのバッテリーを積んだEVで、時速100kmで定速走行(ACCを使って)したとき、6.5km/kWhになるかどうかがわかりません。風の強さや、路面状況、天候などでEVの電費はシビアに反応して低下していきます。
普通充電は軽EVでも高級EVでも充電量は同じ
「高級EVって、充電スピードが速いんでしょ」とおっしゃられる方、それは半分あっていますし半分まちがっています。
高級EVの代表、テスラでは、テスラ車専用の高速充電器が各地に用意されていますし、アウディやポルシェは、ディーラー(現在は一部店舗)で150kWの高速充電が可能です。一部では、このような高速充電サービスが受けられるため、高級EVの充電が速いと思ってしまわれたのでしょう。
しかし、夕方おうちに帰ってから、翌朝までゆっくり普通充電をする場合は、軽EVでも高級EVでも、200Vなら2.9kWないしは6.0kWの出力ですので、バッテリー容量が大きい高級EVでは、充電時間が長くなります。
例えば、90kWhバッテリーのEVで、空になったバッテリーを満充電するのに必要な時間は、200V・2.9kW器で約31時間、同6.0kW器で15時間かかります。
1回の走行で充電がなくなるような距離を走った後が大変!
どんなEVでも、外出先でSOCが少なくなると、そこから先は電費のいいEVが有利になり、電費が悪い高級EVは不利となります(テスラなど高速充電対応モデルを除く)。
バッテリー容量が大きくても、小さくても、公共の高速充電器で充電できる電力量は基本的には変わりません。筆者は、公共高速充電器で100回以上充電しましたが、充電器の出力の半分しか出ないことが何回かありました(EVのバッテリー温度が上昇して充電量が少なくなったことが多い)。
公共高速充電器では、充電器スペックの8割方充電できればOKぐらいに考えて、長距離を走行するときは、どこで充電するのかを事前に計画を立てておく必要があります。
EVは、1回の走行で充電がなくなるような距離を走ったら、その後が大変です。高速道路で、急速充電器を充電しながらの走行になると、1時間半ほど走ったら30分充電を繰り返すことになります。
ただ、1日でスペック上の航続距離を超えるような走行をすることは、普段の生活ではほとんどないでしょう。年に1,2回の帰省のときぐらいでしょうか。そんなときは飛行機が新幹線、などの公共交通機関のほうが楽かもしれません。
テスラが売れる理由のひとつは、充電インフラがセットになっていること
前述したとおり、テスラは、テスラ車専用の「テスラスーパーチャージャー」を全国各地に展開しています。
公共急速充電器は、1回最大30分の利用となりますが、テスラスーパーチャージャーは時間制限がありません。また、各場所の充電器は1台ではなく、複数台設置され、多いところでは6台以上の充電器を備えています。さらに、充電速度は早く(だいたい、40〜50分で満充電になる)、課金は公共の充電器の時間制とは異なり、従量課金とユーザーに対して公平です。
テスラが日本でも売れている理由には、このような充電インフラがセットになっていることが挙げられます。
このテスラスーパーチャージャーのサービス制度は洗練されていますので、後日の「EV談義」で紹介しながら、なぜ、日本の充電インフラがテスラのようにできないのか、その理由にも迫りたいと思います。
「脆弱な充電インフラと電力不足いう高い壁」については次号で
今回は、充電時間の長さを中心にお話しました。一部、日本の充電インフラの脆弱さにも触れましたが、次号ではもう少し深く掘り下げ、電力不足問題とその解決策について語りたいと思います。
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※この記事は2022年6月現在の情報に基づいて執筆しています。