2022年秋に日本に導入された、フォルクスワーゲン ID.4。販売が好調なフォルクスワーゲンのBEVシリーズの中核を担うSUVタイプのID.4は嶋田氏の目にどう映ったのか。詳細をリポートします。
フォルクスワーゲン=そこはかとなくいいクルマ
皆さんはフォルクスワーゲンというブランドのクルマに、どんな印象をお持ちでしょうか? いや、今時「丸っこいカタチをしたカブトムシみたいなクルマ」なんて言う人は、おそらくいないでしょうね。
『ビートル』こと型式名『タイプ1』は1938年に誕生して2,152万9,464台が生産され、世界中で愛された名車中の名車ですが、今となってはかなりマニアックな存在。とっくに世界中のハッチバックのベンチマークであり続けている歴代ゴルフやその妹版といえる歴代ポロが最もポピュラーなフォルクスワーゲンとなっていますから、きっと多くの方はそのあたりの雰囲気やテイストを思い浮かべることでしょうし、僕自身も現代のフォルクスワーゲンならまさしくそこでしょ、なんて感じています。
ざっくり言うなら、どこかが変に尖っていたり妙に出しゃばっていたりするところがなくて、だからといって何か不足だとか不満だとかを感じるところがあるわけでもなく、洗練されて上質で、走っているときにはずっと穏やかな気持ちでいられ、そこはかとなく「いいクルマだよなぁ」と満足感や充足感のようなものを感じていられるクルマ。そんな感じでしょうか。
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ID.4もフォルクスワーゲンらしさをきちんと感じさせてくれる
ならば、フォルクスワーゲンのピュアEVとして日本に初めて上陸したID.4はどうでしょう?そうした『らしさ』をちゃんと感じさせてくれるクルマに仕上がっているのかどうか。
いや、それが思わずニヤリと笑っちゃうくらいにフォルクスワーゲンらしくて、まるでゴルフやポロを走らせているときと同じような気分でいられたのでした。
フォルクスワーゲンのピュアEVシリーズであるIDには、ワールドワイドではコンパクトなハッチバックのID.3、SUVのID.4、クーペSUVのID.5、中国向け7シーターSUVのID.6、ワンボックスのID.Buzzといったモデルたちがラインナップされています。2020年秋に最初のIDのデリバリーがスタートして、2022年秋にはシリーズ全体で50万台の販売をマークしています。10万台を軽く超えるバックオーダーも抱えています。めちゃめちゃ好調なのです。
その中心となっているのが、今回ご紹介するID.4。クルマ好きやEVに関心のある人は覚えておられるでしょうが、2020年にドイツ本国で発表され、2022年の11月に日本上陸を果たしました。その年の初頭には日本導入がアナウンスされていたので、上陸に期待をかけていた人も多かったことでしょう。
日本に導入されるID.4は、現状では2タイプ。バッテリー容量が77kWhで最大561kmの航続距離を持つ『Pro』と、52kWhで388kmの『Lite』です。77kWhのProには204psと310Nmのモーターが組み合わせられ、52kWhのLiteは170psと310Nm。充電は200Vの普通充電とCHAdeMOによる急速充電に対応していて、77kWhの仕様では90kWの急速充電器を使って80%まで約40分、6kWの普通充電では残量ゼロから満充電まで約13時間となっています。
僕が試乗することができたのは、主力モデルとなるProをベースとした上陸記念の特別仕様、ローンチエディションでした。
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派手さはないけれど、印象的なデザイン
最初に写真で見たときからフォルクスワーゲンらしい嫌味のないプレーンなスタイリングだと感じていましたが、実際に目にしたID.4は思っていたより表情が豊かでした。ショルダーラインの流れ方、ウエストラインより下側の絞り込み、前後のピラーをつなぐシルバーのアクセントなどが、正統派SUVのシルエットをスタイリッシュに彩っています。
同じフォルクスワーゲンのアルテオン シューティングブレイクなどもそうなのですが、ここしばらくのフォルクスワーゲンのデザインはイタリアンのようなくっきりした華やかさこそないのですが、気持ちにスッと入ってくるようなデザインをまとっていることが多く、ID.4も間違いなくそうした一台。派手ではないけれど印象的で、個人的には好感を抱きました。
そのスタイリングは、フォルクスワーゲンのEV用モジュラープラットフォーム、『MEB』の上に構築されています。車体のサイズは全長4,585mm、全幅1,850mm、全高1,640mm。フォルクスワーゲンではT-Rocよりほんの少し大きい程度で、ざっくり言うならトヨタRAV4とほぼ同じくらいのサイズ感と言っていいでしょう。
ホイールベースは見た目以上に長いです。2,770mmという数値はヒョンデ IONIQ 5の3,000mmほどインパクトはありませんでしたが、充分にたっぷりとした寸法。レイアウトの自由度が高いEVならではの賜物で、それはそのまま室内の居住スペースの広さにつながっています。
フォルクスワーゲンの空間作りの上手さもあるのですが、車体のサイズからして室内全体が広々とゆとりがあるように感じられます。特にリアシートまわりは大きな恩恵を受けていて、脚を組むこともできるほどです。
広さを感じるのには、余計な造形のないシンプルでクリーンなダッシュボードも無視できない要因です。
各種操作をセンターのタッチスクリーンで行わねばならないことにはちょっとばかり慣れが必要だし好き嫌いは分かれるでしょうが、物理的なスイッチ類が少なくて視界がスッキリしていることについては、素直に気分がいいなと感じます。全体的にクオリティが高く、ほどよく洗練されているあたりはやっぱりフォルクスワーゲンで、ここもなかなか好印象です。
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安心感のあるマイルドな走り
さて、走らせてみよう……とリモコンキーでドアのロックを外してシートに腰を下ろすと、驚いたことにすでにシステムが起動していて、セレクターを動かしてアクセルペダルを踏めば走り出せる状態になっていました。スタートスイッチを押すまでもない、というわけです。降りるときも同じ、シフトセレクターでパーキングを選び、ドアを開いて外に出て、リモコンでドアをロックすればシステムが自動的にオフになります。電気仕掛けのクルマだからこそ可能になったことですが、これはとっても新鮮でした。
実際に走らせてみて感じたのは、ちょっと変な言い方になっちゃいますけれど、「ああ、EVだなぁ」という気持ちと「ああ、フォルクスワーゲンだなぁ」という気持ちが入り混じったような印象、と言えばいいでしょうか。
室内はいかなるときも静けさに満ちていて、常に腰の据わった安心感のようなものを感じていられて、見た目からは想像もつかないくらいによく曲がってくれます。もちろんアクセルペダルを踏み込んだ瞬間から一切の遅れもなく力強い加速を開始してくれます。モーター駆動と重心高の低さが生み出す、EVならではのメリットがしっかり活かされています。
でも、アクセルペダルをグイッと床まで踏み込んだところで、ドーン!と背中や腰に圧が来るような鋭く強烈な加速感に襲われることはありません。参考のために記しておくと、0-100km/h加速は8.5秒。現行型のマツダ ロードスターにコンマ2〜3秒負けているだけですから必ずしも遅いクルマじゃないのですけど、速いクルマかといえばそういうわけでもありません。
回生ブレーキによる減速力もかなりマイルドで、Dモードからより回生が強く働くはずのBモードに切り換えてみても、グッと来るような減速感はありません。……どういうこと?
フォルクスワーゲンの哲学がじんわりと伝わってくる
実はこれ、「やればできるけどやらない」という、フォルクスワーゲンの優しさなんだと思うのです。
EVっぽさを強調するために加速感や減速感を際立たせる制御にすることはそれほど難しくはないけれど、そこを尖らせるより必要にして充分の適度なレベルに抑え、誰もが違和感なく自然にドライブできるクルマに仕立てた、ということでしょう。
そういえばハンドリングもよく曲がりはするけれど、とても自然で楽しさと安定感のバランスがいい具合に釣り合っている感じだし、乗り心地もジェントルにしてマイルドだけれど、ルーズなところのない快適なものでした。すべてが何だかちょうどいいかも、と思えたのです。
フォルクスワーゲンは、イコール、ピープルズカー。より多くの人にとって親しみやすく、あらゆるレベルの運転技術の人に扱いやすく、すべての乗員にとって快適で、誰もが一緒に過ごすことに楽しさや喜びを感じられるクルマであろう。そうしたフィロソフィのようなものが、いろいろなところからじんわりと伝わってくるようなクルマ。ID.4はそんな印象を与えてくれました。
EVになってもフォルクスワーゲンはどこまでもフォルクスワーゲン、なのですね。
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※この記事は、2023年2月時点での情報で執筆しています