1987年のデビュー以来、大きく姿を変えることなく現在まで販売されるジープ ラングラー。変わらないのは姿だけでなく、どんな場所でも走破できるという基本設計もブレずに守り続けています。一方、乗り心地はモデルチェンジのたびに大きく進化。最新型ラングラーに試乗した自動車ライターの嶋田智之氏がその性能に迫ります。
9年連続で販売記録を更新しているジープ
自動車メディアに文を寄稿したりクルマのイベントでトークをしたりという仕事をしていると、知人はもちろん出逢った人などにも「あのクルマってどうなの?」みたいな質問をされることが少なくありません。そして僕はそれを、現段階のクルマに対するひとつの関心度のバロメーターにしているところがあったりもします。
質問が多めのクルマは人気が高いのかなと思って実際の販売台数のチェックをしてみると、やっぱり売れ行きが好調だったりするので、あながち的外れではないような気がしています。
ここ数年、30代から40代くらいの男性から最も「どうなの?」と尋ねられたのは、ブランドでいうならジープでした。
その中で比重が大きかったのは、家族が増えることによって乗り換えを考えている人、そしてそろそろ子供にお金がかからなくなってきたことで好きなクルマに乗り換えたいと望んでいる人。
昔はジープといえばオフロードを走ることが好きなマニアのための乗り物で、どちらかといえばニッチな存在というイメージが強かったのですが、今は様子が違っていて、どこにでも行きたいところまで走っていける自由の象徴、というようなイメージです。
なるほど、道を選ぶことなくどんなところでも走れて、行ってみたいと願っていた場所まで辿り着くことができるクルマ。それが魅力的に思える気持ちはわかります。誰にだって“ここではないどこかに行ってみたい”という願いはあるものですからね。
実際のところ、ジープは売れています。何と2013年から9年連続で販売記録を更新していて、昨年などは新型コロナウイルスと半導体不足の影響で乗用車市場が軒並み苦戦を強いられ前年割れしていたにもかかわらず販売を伸ばしただけでなく、初めて1万4000台を超えるという記録更新まで成し遂げているのです。
中でもジープの基本形にして悪路走破の最高峰、ラングラーは前年より1200台も数字を伸ばし、あと一歩で7000台という過去最高記録を達成したりしています。
実は“まさかこの男がジープに憧れていたなんて……”という古くからの友人がまさしくジープを購入したし、ちょうどラングラーをお借りして個人的に雪のあるところまで試乗してきたタイミングでもあるので、今回はジープ ラングラーのお話を少々。
悪路を走ることを最優先した基本設計
ラングラーは、その系譜を遡っていくと最初のジープというべきウイリスMBに行き当たる、ジープの精神性を最も強く現代に伝えるモデルです。
その精神性とは何か。第2次世界大戦中のアメリカ陸軍が欲した悪路走破性、転じてまさしく“どこにでも行ける”クルマであること、でしょう。
巷ではまさしくSUVカテゴリーが花盛り。ラングラーも、分類上はSUVに入れられることの多いクルマです。
が、他のSUVがシティユースを重視しながら悪路走破性を考えたようなコンセプトであるのに対し、ラングラーは悪路走破性に徹底的にこだわったうえでシティユースについても考えたような作りとなっています。しかもそれはウイリスMBの直系であるジープCJの後継として1987年にデビューした、初代ラングラーから全くブレがありません。
現在のラングラーは4代目、2017年に発表されたモデルです。ほとんどのSUVが快適性を重視して乗用車のようなモノコックボディを採用している中、強度が高く頑丈で耐久性にも優れているラダーフレームを採用し、そこに凹凸の大きな地面を走っていても常に車体とのクリアランスを確保しやすいリジッドサスペンションを取り付ける、という基本的な構造を踏襲しています。つまり悪路を走ることを最優先した基本設計がなされている、というわけです。
そうなると街中での快適性という点では不利になるのが道理。先代までのラングラーは変遷とともに良好になってきてはいたものの、ちょっとばかり我慢が必要な場面もあるようなヘヴィデューティな乗り心地でした。
が、現行のラングラーは、そこがずいぶん改善されています。ぱっと見ではそれまでのラングラーとの違いはあまりないように思えるかもしれませんが、マニアにはJL型と呼ばれる現行モデルは微に入り細を穿ったような手抜かりのない改良が無数に加えられていて、まったく新しいフェイズといえる代物なのです。
なので、街中から高速道路での走行で“キツイなぁ”と感じるような場面はまずありません。モノコックボディのSUVと較べれば僅かにゴツい感じはありますし、背が高いので上モノの揺れがほんの少し感じられたりすることもありますが、逆に“これこそジープの味”と笑っていられるくらいなものです。
今のクルマとして多くの人が望む快適装備のほとんどが備わっていますし、視界も良ければ車体左右後方の見切りもいいので、その姿から想像するより遙かに快適に過ごせます。
ウェット、シャーベット、圧雪路。どんな道もものともしない
お借りしたのはごく最近に受注を終了してしまった3.6リッターV6エンジンを搭載したモデルだったのですが、低速域からまんべんなく充分な力強さを発揮してくれるし、その気になれば望外な快音とともに鋭い加速を見せてくれたりもして、なかなか好印象でした。
が、もちろん今後の主流にもなる2リッター4気筒ターボの方にも試乗したことがあって、そちらはV6よりもパワーが12ps落ちるだけ、逆にこうしたクルマに重要なトルクの方では53Nmも大きく、排気量の差を全く感じさせないパフォーマンスを持っていました。
悪路を走るとき、ときどき微妙なアクセルワークで僅かな駆動力だけを路面に伝えたいということもあります。そんなときにはアクセル操作に対してツキのよろしくないターボエンジンはイマイチなんじゃないか? なんて思ったのですが、それは完全なる杞憂。反応も素早くトルクのコントロールもしやすいエンジンで、「なるほどジープだもん、考えているよな、そのくらい」なんて思わされたものでした。
雪を求めて山の方に登っていくと、路面は刻々と変化していきます。ドライからウェットへ、ウェットからシャーベットへ、そしてシャーベットから圧雪路へ。ところどころ陰になって片側だけ凍結している部分が散らばっていたりもしましたが、よっぽど常識と良識を飛び越えたドライビングでもしない限り、スタッドレスタイヤを履いたラングラーはまず何事もなく走り抜けられます。ほとんど鼻歌まじりで。これは予想どおり。
というのも実は以前、真冬の北海道の特設雪上コースで元気よくラングラーを走らせていただいたことがありました。
雪上サーキットのようなコース、凸凹のモーグルが設置されたコース、深さ20cmほどの新雪。様々な路面状況で試すことができたのですが、一般的に考えたらここまでは攻めないだろうなぁ……という領域まで持っていったつもりでも、ラングラーはまったくへっちゃら。危なげひとつも感じさせることなく、あっさりクリアしてしまったのでした。
現行モデルからフルタイム4WDに進化
ラングラーの4WDシステムはこのモデルで、従来の切り替え式パートタイム4WDから“セレクトラック・アクティブ・オンデマンド・フルタイム4WD”と名付けられたものに変わりました。
これは基本、副変速機を“オート”にセットしておけば、路面の状況や環境に合わせて自動的に最適な駆動力を前後に配分してくれるというもの。その副変速機にはいくつかモードがあって、駆動を100%後輪のみに絞ることもできれば、従来のパートタイム式と同様に前後50対50に固定することもできるし、ものすごい悪路をじっくり進むときのためにギア比をグッと低めることも可能です。
片側のタイヤが滑ったときには電子制御ブレーキデフとしてESC(電子制御スタビリティコントロール)が作動して、左右輪の駆動を調整してくれたりもします。でも、よっぽどのことでもない限り、オートにしておいて問題はありません。
別の機会に、絵に描いたような悪路の中の悪路、みたいなコースでテストさせていただいたこともありました。
壁かと思えるような登り坂。奈落に向かっていくような下り坂。雨が降った後のぬかるみ。頭ぐらいの大きさの石がゴロゴロ転がっているガレ場。横倒しになりそうな片側下がりの傾斜地。前後輪ともひとつずつ浮くようなコブが続く場所。そしてそれらの複合技。
並みの4WDシステムでは進入するのに躊躇するレベルであり、最も信頼できる自分の2本の足でも間違いなく往生するような、道ともいえない道。なのにラングラーは、最大斜度が30度を超える片側ガレ場、片側ぬかるみの登り坂をあっさり走破し、同じく最大斜度30度を超える濡れた草原の下り坂を何ごともなく降りていきました。ほとんど「ウソだろ?」の連続だったのでした。
僕自身は体験する機会に恵まれてはいないのですが、岩が連なるような道じゃないところを、片足を大きく伸ばしたり縮めたりしながら微速でジワジワ抜けていくようなラングラーの写真や映像を、御覧になったことはありませんか? あれは特撮でもトリックでも何でもないのです。ラングラーの中でも最強のオフロード性能が与えられた“ルビコン”というモデルで、ドライバーにそうした場所を走る技量さえあれば──つまり徐々に経験を積んで覚えていけば、ああいうエクストリームなことをするのだって可能です。
ジープ ラングラーというのは、そういうクルマなのです。
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【まとめ】ラングラー以外のジープモデルもおすすめ
ぶっちゃけ、日本で普通に暮らしていて、そんなふうな悪路に遭遇することはまずありません。そこまでの悪路走破性が必要かといえば、そんなこともないでしょう。
最もコンパクトなジープであるレネゲード。街乗りもいけるクロスオーバーSUVの草分け的存在であるチェロキー。その小型版ともいうべきコンパス。さらにはフルサイズのグランドチェロキー。それらジープの別のモデルたちも、ラングラーほどではないものの悪路の走破性はかなり高いから、結構な“ここではないどこか”までは連れていってくれます。
それにラングラーよりも快適なモデルをお望みなら、サイズやライフスタイルに合わせてこれらのどれかを選ぶのがいいとも思います。
ちょっとしたところにしか出入りしないから最低地上高だけ確保できていればOKということでしたら、レネゲードやコンパスに設定がある前輪駆動のモデルでもいいと思うくらい。
でも、やっぱり憧れてしまうのはラングラーなのです。確かに驚異的な走破性は、無用の長物になっちゃうかもしれません。でも、それは最高速度350km/hを誇るスーパーカーを手に入れたからといって、誰も自分で350km/hを経験することがないというのと同じこと。
重要なのは、やらないかもしれないけどちゃんと“できる”、ということなのです。ラングラーは、その気になれば誰もが思いもよらない普通じゃ辿り着けない場所まで、しっかり自分を連れていってくれる。それが裏付けられているということが大切なのです。実際に裏付けられていますしね。
僕の中にも妄想らしきものがあって、美しい新緑の木々だけに包まれるような誰もいない深いところまで分け入って、静かにゆっくりと何もしない時間を過ごしたい、次から次へと自分だけの美しい風景を探すような旅をしたい、なんて考えたりもします。アテなんて何ひとつないのに。
でも、そんなふうに自由な旅心を掻き立ててくれるのが、ジープというブランドのクルマが持つ魔法なのかもしれませんね。ジープは男(と女)のロマン。心の深いところでそう感じています。