2022年1月に日本初公開となった新型フェアレディZ。オーダーがスタートすると多くの人が殺到し、すぐに一時受注停止になる事態に……。スポーツカー冬の時代と呼ばれる中でも人々を魅了する新型Zに嶋田智之氏が試乗。その魅力を徹底レポートします。
世界中のファンが待ち望んだ新型フェアレディZがついにデビュー
素晴らしいスポーツカーというのは世界中に存在しますが、日本には日産 フェアレディZが存在します。ファンたちからは“S30型”と型式で呼ばれる初代が1969年に誕生してから現在まで、数年ほど姿を隠していた時期もありましたし、次期型の登場は期待できないと噂されたことも何度かありました。が、Zはスポーツカー不遇の時代に突入しても生き続け、ずっとずっと日本のスポーツカー好きの心の渇きを潤し続けてきてくれたのです。
それどころか初代が日本市場でおよそ8万台の販売台数を記録したのに対し、海外市場では北米を中心におよそ47万台の販売をマークしたことからもわかるとおり、歴代のZは世界中で親しまれ、愛されてきました。2002年にデビューした5代目(Z33型)の時点で輸出先はおよそ100ヵ国となり、続く2008年登場の6代目(Z34型)では120ヵ国近くまで引き上げる計画も発表されたほどでした。これはスポーツカーとしては異例といえるレベルです。“日本のZ”は、同時に“世界のZ”でもあるのです。
そう、Zは日本の誇りというべきスポーツカー。惚れ込む人は熱狂的といえるほどの愛情とこだわりを見せるし、逆にアンチを標榜する人ですら常に気にしている存在。スポーツカーというカテゴリーのクルマは好きだけれどZには一度たりとも関心を持ったことがない、なんていう人はほとんどいないんじゃないか?と思います。
2020年の秋にプロトタイプが発表された新型フェアレディZも、世界中で話題沸騰となりました。2021年の夏に北米市場向けの市販モデルが発表され概要が伝えられるとそれはさらに激しくなり、2022年の頭に日本仕様がアナウンスされると日本のスポーツカー好きたちも僕たちメディア関係者も色めき立ちました。
そしてこの7月に、ついに実車に触れることが叶いました。北海道の陸別にある日産自動車のテストコースでの試乗を終えて、今、僕はとても幸せな気持ちなのです。予想だけでなく期待すらも大きく上回るほどの出来映えで、大のスポーツカー好きである僕を魅了してくれたのですから。ちょっとした感動、といってもいいほどに。
新型ZはZ34型のビッグマイナーチェンジ版。その理由は?
……といきなり結論めいた言葉を述べてしまいましたが、その前に新型Zについて軽く説明しておくべきでしたね。7代目となった新型フェアレディZは、より正確に言うなら6代目のビッグマイナーチェンジ版です。それは6代目の“Z34”に対してリファインを意味する“R”をつけた“RZ34”という型式からもわかりますし、日産自動車もそれを表明しています。
だからといってワケもなく落胆する人がいるとしたら、それは早計というものです。例えば──これはちょっとマニアックな話かもしれませんが──フェラーリ458イタリアが488GTBへと進化し、488GTBがF8トリビュートへと昇華したのにも似た、ほとんど全面的に手が入っているといっていいくらいのビッグマイナーチェンジ。
一例を挙げるなら、5代目の“Z33”の頃から改良を重ねて熟成させてきて優れた面も足りない面も知り尽くしているプラットフォームにさらに手を入れて徹底的に磨き直すような、そうした類の改良が無数に行われているのです。全体の8割以上に新しい部品番号が振られている、といえば生半可なマイナーチェンジじゃないことを察していただけるでしょう。ほとんどフルモデルチェンジのようなものなのです。
にもかかわらずあくまでもマイナーチェンジとしたのは、開発を引っ張ってきた現ブランドアンバサダー、田村宏志さん──現行型GT-Rの育ての親でもあります──をはじめとする開発陣の“Zをもっと育てたい”という想いが強かったから。
スポーツカーでは儲けられないこの時代において、型式を変えて認証をやり直すフルモデルチェンジではコストが膨らみすぎるため、経営の数字を見る立場の人たちの首を縦に振らせることが困難なのは自明の理。互いに互いの正義があってどちらも誤りではないわけで、着地点を探した結果が「マイナーチェンジのままZを進化させる」ということだったのでしょう。それが売価を抑えることにつながっているのも事実です。
プラットフォームも、車体そのものも、サスペンション周りも、ステアリング周りも大幅に手が加えられ、エンジンやトランスミッションは同じ日産の別のモデルから引っ張ってきたものをZに最適化させる方向で大改良を施して搭載。もちろん6代目Zをご存じの方ならご覧になっておわかりのように、スタイリングデザインもインテリアも、まったく違うものとなりました。
初代Z30をオマージュしたスタイリング
そのスタイリングですが、カッコいいと思いませんか?
デザインというのは良し悪しじゃなく好き嫌いで語られるべきものだという考え方があるので、僕は普段、あまりそこについて論じることはしていません。
が、これは別。長くなだらかなノーズと後方に向かって絶妙に落ちていくルーフのライン。それに優しくもあり引き締まってもいる表情を生み出すヘッドランプなどなど。それらは始祖であるS30型Zへのオマージュが込められたもので、面影もダブります。
けれど、線や面に初代をコピーした部分はひとつもないのです。ここまでまとまりのいい造型に空力パーツなどを加えると雰囲気が台無しになっちゃうことも少なくないのですが、一部のリアスポイラー付きのグレードでも印象はさほど変わらず綺麗なまとまりを見せています。
それらはデザインとしてかなりレベルの高い技術が要求されることで……というような理屈を並べることはまだまだできるのですが、いや、ヤメにしておきましょう。ただただカッコいい。それに優る正しい表現などないように思えるからです。
ラインナップは、標準型、快適装備が充実したバージョンT、走りに重きを置いたバージョンS、走りも快適性も重視した最上級のバージョンSTという4グレード。トランスミッションはバージョンTが9速AT、バージョンSが6速MT、標準型とバージョンSTはATとMTから選べます。
また標準型とバージョンTはタイヤ&ホイールが18インチで、バージョンSとバージョンSTが19インチ、その2グレードにはアルミキャリパー対向ピストンのブレーキシステムとメカニカルLSDが備わります。そしてエンジンや足廻りは全車共通。覚えてしまえばシンプルといえる構成です。
エンジンはスカイライン400Rから移植した3リッターV6ターボのVR30DDTTユニット。405psに475Nmという数値にも変わりはありません。が、アクセルオフしたときの回転落ちを早めたり、加速時の回転の伸びを高めたりするなど、主としてフィーリング面の見直しが図られています。
MTとAT、どちらも素晴らしい出来
まず、このエンジンが素晴らしい。低回転域から力強く、回転フィールはどこまでも滑らかで、高回転域での伸び感も気持ちよく、全域に渡ってシャープで、そしていうまでもなくたっぷり速さというものを満喫できます。
テストコースの長く幅広の直線路というのはスピード感を得にくいので、それも影響しているのかもしれませんが、ゼロ発進で全開加速を試みると、まったくストレスなくメキメキ速度を伸ばして「ああ、気持ちいいな」なんて思うや否や、180km/hのリミッター。まだまだ伸びるぞ、という頃合いで前触れもなしに来るから軽く驚いたのですが、つまりはそれくらい速い、ということなんですね。
いずれストリートで走ることになったらドライバーとしての受け止め方も変わるのかもしれませんが、レッドゾーン近くまでパワー感もトルク感もドロップしないので、感覚的には405psという数値は過少申告であるようにすら思えたほどでした。
グレードによっては、ドライビングの状況に合わせてエンジンの生音をスピーカーから流れる音で補強して“聴かせる”サウンドへと演出するエンハンサーが備わっているのですが、それがまたいい具合なのです。
生音を解析して足りないところを盛り、過剰なところを抑え、気持ちのいいV6サウンドへと増幅していることもあって、不自然さはなく、いわれなければ普通に「いい音!」と興奮させられていたかもしれません。ただ、その仕組みを持たないグレードであっても、メカニカルなノイズ混じりの荒さすら感じさせるサウンドにしっかりと心躍らされました。この辺りは好みの問題といえるかもしれませんね。
トランスミッションは6速MTと9速ATの両方を試すことができたのですが、もし本気でどちらを選ぶか迫られることになったとしたら、僕の場合は悩んじゃうかもしれません。
MTの方は基本的にはキャリーオーバーで、ギアの吸い込まれ感を高めるなどフィールの改善が行われているとのことでした。MT好きとしては、まずはこの時代に完全な古典といえるMTを残してくれたことに感謝。シフトスティックを自分の腕で動かして自分の意志でギアを選ぶ感覚は、間違いなく楽しいものでした。ただし、おそらくまだなじんでないからだったのか個体差なのか、シフトをエンゲージしている途中に微妙な引っ掛かりを感じることがあったのが気になりました。
そして、それにも増してATの出来が素晴らしかったのです。9速ATは強大なトルクにも対応できる、北米向けフルサイズピックアップ用をベースとしているのですが、変速の滑らかさはトルコンならではのものなのに、変速スピードの速さとキレのよさはDCT並みで、パドルで積極的に速度を切り換えていくのが楽しかったのでした。MTより段数が3つも多いのは、エンジンのサウンドを堪能できるという点でもドライバビリティのよさやドライブの幅が広がるという点でも優勢です。
僕は3ペダル大好き人間ですが2ペダルが嫌いなわけでもないので、悩んだ末に僕はATを選ぶことになるでしょうね。
ちなみにATの9速目はいうまでもなく完全なクルージング用で、高速道路での移動をイメージして走ってみると、120km/h前後でやっと9速に入る感じ。新東名をはじめとした120km/h区間を想定したものなのかもしれません。回転を上げず、豊かなトルクに任せてクルージングするのも、なかなか心地のいいものでした。
GT-Rとは違う。Zは大人のダンスパートナー
そこでふと気付いたのは、グランツーリスモとしてのパフォーマンスの高さでした。高速領域ではもちろん、リミッターが効くギリギリあたりの超高速域でも直進安定性はかなりのものだし、乗り心地がZとして過去最高に快適なので、ロングドライブがまったく気にならないことが容易に想像できるのです。
スポーツカーにもいろいろなタイプがあって、グランツーリスモ寄りのクルマもあれば峠道をガンガン攻めてこそ面白いクルマもあるわけで、あえてZをどちらかに類別するならグランツーリスモ寄り、ヤンチャに走る若者向けというより心にゆとりのある大人向け。僕は歴代フェアレディZに対してそうした印象を持ち続けてきたので、グランツーリスモとしての優秀さが膨らんでいたことには素直に喜びを感じたのです。
が、新しいZは、ただそれだけのクルマではありませんでした。ハンドリング、つまり曲がる楽しさも存分に持ち合わせているのです。
乗り心地のよさは、車体をガッチリと固めてそこによく動く脚を組み合わせたことによるものです。高性能スポーツカーといえばサスペンションをグッと引き締めるというのがセオリーですが、Zのサスペンションはそのセオリーからするとだいぶやわらかめ。ときに細かく、ときに大きく、とにかくよく動きます。その動きの中でパワーやトルクを巧みに受けとめるよう躾けられている。そんな印象を受けました。しなやかさを感じさせながら、意外なほどのスピードで、極めて気持ちよく曲がってくれるのです。
脚がよく動いてくれるおかげで曲がる姿勢を作りやすいし、躾が行き届いているから後輪がグリップを放棄しようとしてもコントロールしやすい印象を受けました。19インチに機械式LSDの仕様の方は18インチのオープンデフの仕様よりもクルマの反応がシャープで、コーナリングスピードも高いから、そういう意味ではよりスポーティなドライビングを堪能できるモデルであることは確かです。
が、これはいずれの新型Zにも感じたことなのですけれど、タイヤの限界ギリギリのところで走っても存分にスポーツカーとしてのパフォーマンスを楽しめるし、しっかり高揚感を得られるのは確かながら、実は持てる実力の8割前後ぐらいの“攻める”と“流す”の中間ぐらいで走っているときが、最も気持ちよく楽しく感じられたのでした。
そう、ZはあくまでもZであり、GT-Rとは違うのです。懐はちゃんと深いけれど、そのすべてを使い切らなくても充分にドライバーを満足させるという大人っぽさ。やればできるけれどやらない、みたいなゆとり。そこが魅力的なのですよね。
そういえば新型Zの開発のキーワードは“ダンスパートナー”。そのダンスとは、ヒップホップだったりブレイクダンスだったりするわけじゃなくて、きっとワルツだったりタンゴだったり、そっちの方向なのでしょうね。そう、7代目のフェアレディZは、まさしくそういうクルマなのだと思うのです。人生をより深いものへと誘ってくれる、美しいパートナー。惹かれてしまうのは当たり前だと思いませんか?
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※この記事は2022年8月現在の情報に基づいています。