2022年5月、通算6代目となる新型が登場したホンダ ステップワゴン。ボディサイズが拡大されて全グレード3ナンバーサイズになるなど、先代から大きく進化しました。インテリアにもホンダの中核を担うミニバンにふさわしいさまざまな装備が与えられています。そんな新型ステップワゴンは実際に乗るとどうなのでしょうか。嶋田智之さんの試乗インプレッションをお届けします。
SUVの影に隠れていますが、ミニバン人気も健在です!
今やファミリーカーというカテゴリーの主役はSUVに奪われたようなイメージもありますが、いやいや、ミニバンもがんばっています。2022年の1月に発売が開始されたトヨタのノア/ヴォクシーは、自販連のデータによれば2022年4月の新車販売台数でそれぞれ7位と9位。“ノアヴォク”と呼ばれる事実上の双子車なので両方の台数を合算してみたら、なんと2位までランクアップした計算でした。
そしてノアヴォクのガチのライバルであるホンダ ステップワゴンが、2022年5月に発売されました。こちらも1ヵ月で月間販売計画の5倍を超える受注と、かなり好調な様子。「家族のためのクルマとしてはミニバン最強!」という図式は、崩れたわけじゃないのですね。
今年の1月に新しいステップワゴンのスタイリングが公開されたとき、僕は「これ、結構いいかも」と感じたのでした。なぜなら、日本のミニバンにありがちなオラオラ系の威圧的な雰囲気が、まったく感じられなかったからです。基本、ミニバンは家族で幸せな時間を過ごすためのクルマ。「攻撃的な表情をしたクルマで周りの人を威嚇してどうする?」と、以前からずっと感じていたからです。
エアーとスパーダ、ディテールが異なる2タイプを用意
通算6代目となる新型ステップワゴンは、1996年にデビューして大ヒット作となった初代を連想させる水平基調のシンプルでクリーンなシルエットを基本とし、“エアー”と“スパーダ”というディテール違いの2タイプが用意されています。エアーは潔ささえ感じられるくらい飾り気のない優しいデザイン。もう一方のスパーダはバンパーの形状や大きめのフロンドグリル、控えめなエアロパーツとモール類などで精悍さと上質さを演出したデザイン。
日本のミニバンユーザーには立派に見えたり偉そうに見えたりすることを好む層も少なくないことから、より売れるのはスパーダの方だろうとは思うのですが、個人的には穏やかで平和な印象すらあるエアーの方により大きな好感を持ちました。海の向こうの悲しい争いのことを思えば、なおのこと。
ホンダ史上最大の室内空間を最大限活かした快適さ
インテリアについても、基本は同じながらはっきりと差別化がなされています。
エアーはざっくりとした風合いのあるファブリックでまとめられたリビングルームのような空間。スパーダはブラック系のフェイクレザーやファブリックで落ち着きと上質感を持たせた空間。スパーダには“プレミアムライン”という上級グレードも用意されていて、そちらはフェイクレザーとスウェード調の合皮でややゴージャスな印象となっています。
これまでのステップワゴンよりも全長が110mm、全幅が55mm拡大されたこともあって、ホンダ車としては過去最大の車内空間になったとされています。その言葉を引き合いに出すまでもなく、車内に入ってみれば、居住空間が広々としていて文句ナシのスペースであることは実感できることでしょう。
基本は3列シートで2列目がキャプテンシートとなる7人乗りで、2列目がベンチシートとなる8人乗りも選べる、といったレイアウトですが、それぞれのシートに腰を下ろしてみて感じたのは、座り心地が想像していたよりよかったこと。
特に3列目シートにはまったく期待してなかったこともあって、厚手のクッションや高さのある背もたれ、柔らかめのパッドなどで望外の居心地のよさ。ひとりで試乗に出向いたので走行中の快適さを確認することはできませんでしたが、少なくとも静止状態では2列目にそう遜色はないんじゃないか?と感じられたほどでした。シート高が50mmほど高く設定されていることやウィンドウのラインが水平で視界が安定するせいか閉じ込められているような感覚がありませんでした。
前後のロングスライドに加え、左右スライドもできる2列目キャプテンシート
ミニバンとなればシートアレンジが重要になってくるわけですが、ステップワゴンの7人乗りはその点でもポイントは高いと思います。
2列目のシートはキャプテンシートを選ぶと1本のレバーだけで前後方向と左右方向の両方にスライドさせることができて、前後のスライド量はエアーで865mm、スパーダ系は780mm(いずれもキャプテンシート打ち寄せ時)という長さです。左右を大きくずらせばお子さんを見守ったり世話をしたりがやりやすい配置を作ることもできますし、思い切り互い違いにして隣の席との干渉をやわらげて今や当たり前ながらフルフラットにして車中泊することもできます。
もちろん3列目を床下に格納して2列目を前に寄せた4人乗り+大量の荷物、といった使い方だってできます。便利さも楽しさもユーザーの使い方次第で大きく広がっていく、というわけですね。
圧倒的な静粛性と安定感が魅力のe:HEV
実際に走ってみての印象は、さてさて、どうだったか。新型ステップワゴンは、2Lの自然吸気エンジンとモーターを組み合わせたホンダ独自のe:HEVというハイブリッドと、1.5L VTECターボエンジンの2種類というシンプルな構成。これはエアーもスパーダも共通です。
e:HEVは先代からの踏襲ですが、新たにエレクトリックギアセレクターが追加され、下り坂は強めの減速が必要なときにセレクターのD/Bボタンをプッシュすればアクセルをオフにしたときの減速感が強くなり、またステアリング裏側のパドルで減速感を4段階に調整できる機能も備わっています。そしてガソリンエンジンも従来と同じ系統ですが、内部に改良の手が入ってターボのレスポンスなどが向上しています。
最初に乗ったのは、e:HEVのほうでした。このシステムは、エンジンは基本的に発電のために働いて、駆動はモーターが行います。通常走行はバッテリーからの電気によるモーター駆動、強い力が必要なときにはエンジンで発電しながらのモーター駆動し、高速走行のときのみ電気+モーターより効率のいいエンジンで駆動する、というかたちです。なので、街中を走っているときには、ほとんどBEV(バッテリーEV)状態でした。
止まっている状態からスルスルと速度を上げていくときの加速感に力不足は全く感じられないし、速度が上がってエンジンが始動したときにも振動や音は微塵も気にならず、というか気付かなかったこともあるくらい。つまり室内は極めて静かです。運転席から3列目の人とも会話ができるんじゃないか?と感じられたくらい。
力強くて静かで、重心が低いから安定していて、しっとりとした乗り味には高級感もあって、重い分だけ乗り心地もいい感じ。その時点で「選ぶなら断然こっちでしょ」なんて思わされました。
自然で軽快に走れるガソリンエンジン
ガソリンエンジンの方に乗り換えてみて、「あれ?こっちもだいぶいいぞ。40万円近い価格差を考えたらむしろこっちかな?」なんて思わされたのは、ちょっとばかり意外でした。
いや、e:HEVと比べると明らかにパワーもトルクも見劣りするし、静けさの面でも不利なのですが、アクセルペダルの踏み加減に対して適度に気持ちよく反応して素直な加速を見せてくれるし、実際の力不足もほとんど感じられません。聞こえてくるサウンドの音量も想像していたほど大きくないし、音質も耳障りではありません。
全体的に自然な印象で、走りに軽快感もあって、ドライバーとしての心地良さすら感じられたのです。おろそかにされているとまではいいませんが、内燃機関が昔ほど重視されにくい時代にあって、いいエンジンを作ったな、と思えるのです。
ハイブリッドか、純エンジンか。お目当てが決まっていたり、好みがはっきりしたりしているなら問題はないのですが、もし迷っているのであれば、チョイスはちょっと難しいかもしれませんね。
そしていずれのパワーユニットを積んだモデルにも共通しているのは、まずは運転のしやすさ。ハイブリッドも純エンジンもドライバビリティに優れていますし、尖った性格じゃないのでドライビングに余計な気遣いも必要ありません。
さらに前席には骨盤を安定させるフレーム構造を持つホンダ独自の“ボディースタビライジングシート”が採用されているので、快適で疲れにくいのはもちろん、操作を正確に行いやすいのでクルマが思ったとおりに動いてくれます。
車体が大きくなっているわりに小回りが効くのもうれしいところ。Aピラーの位置がよく考えられているので、視界も実に良好です。基本がとてもよくできているクルマなのですね。
エアーの快適装備が弱いのは残念。今後の改善に期待
そんなわけでステップワゴン、概ねとっても印象がよかったのです。独り者ゆえクルマに乗るときにはひとりかふたり、ゆえにミニバンを欲しいと思ったことは一度もないのですが、仮に僕がこのクラスのミニバンを選ぶなら、現時点では間違いなくステップワゴン、人様におすすめすることがあるとしたらやっぱりステップワゴン、です。
けれど何ひとつ問題を感じなかったかといえば、そういうわけでもないのです。例えばエアーのスタイリングのシンプルさやが好きでそちらを選びたいのだけど、エアーではシートヒーターや前列USBチャージャー、ブラインドスポットインフォメーション、2列目シートのオットマンといった欲しい装備類が、たとえオプションでも選べない仕立てになっていること。その気なら備えさせるのはそう難しいことでもないのに、です。
できることならより高額なスパーダを買わせたいというような営業サイドの思惑が透けて見えるかのよう。オラオラ系の対極にあるような安らげるデザインというチャレンジを試みたデザイナーたちの意志やマジメにいいクルマを開発してきたエンジニアたちの努力を軽んじているような気がして、あんまり愉快な感じはしませんでした。それって僕だけなのでしょうかね……?
まぁ小言ジジイみたいな小さな因縁付けはともかくとして、新しいステップワゴン、本当に素晴らしい出来映えのクルマだと思います。ミニバンの購入を考えている方、ぜひともディーラーに足を運んで見て触れて乗ってみてください。きっと気持ちが傾くことになると思います。
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※この記事は2022年7月現在の情報に基づいています。