今回のEV談義は「航続距離」についてのお話です。我々メディアも悪いんですが、EVを語るとき、だいたい真っ先に出てくるスペックが航続距離です。しかし、EVのスペックで最も大切なのは航続距離ではない、と筆者は考えています。
※アイキャッチ画像は、筆者が長距離試乗した、日産 アリアのメーターパネル。表示右上が航続距離。
前回のEV談義
日産 サクラ、三菱 eKクロス EV は本当にゲームチェンジャーになったのか?【カープレミア編集長のEV談義Vol.8】
航続距離とは?
まずは、航続距離の定義についておさらいしましょう。我々メディアもなにげに「航続距離」と使っていますが、EVにおいてより正しい表記は「一充電走行距離」となります。これは、バッテリーを満充電にして空になるまで何km走れるか、を示すスペックとなります。ちなみに、ICE(インターナル コンバッション エンジン=内燃機関=ガソリンや経由などを燃料とするエンジン)車でも航続距離という言葉を使っています。車種によりますが、メーターパネル内のドライブコンピューターに、燃料残量とそれまでの燃費から自動計算して、あと何km走行できるかを示す航続距離の表示機能を備えています。
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※本記事では、一般的によく使われている「航続距離」で統一します。
航続距離の測り方
当たり前のお話ですが、EVの航続距離の測定方法を統一しないとスペックの評価ができません。EVでもICE車と同じように、「WLTCモード」「JC08モード」が航続距離の測定基準があります。この航続距離測定基準は、以下の4つがあります、
① JC08
1文字目のJは、ジャパンのことで、日本独自の規格となります。
② WLTC
近年、燃費でもWLTCモードが主流になりました、JC08よりWLTCモードのほうがより実燃費・航続距離に近い数値を示します。WLTCは「Worldwide harmonized Light-duty vehicles Test Cycles」の頭文字をとったもので国際基準となっています。市街地・郊外・高速道路の各道路状況別の燃費・航続距離を計測し、総合燃費・航続距離をあわせて4項目で表示され、単に「WLTC」と呼んだときは、総合数値を示します。
③ EPA
EPAとは、自然環境などの保護を目的としたアメリカの行政機関で、正式名称は「United States Environmental Protection Agency=アメリカ合衆国環境保護庁」のことです。この機関が定めた基準はとても厳密で充電時のロスも計算されるなど、ほかの基準に比べて実走行での乖離が最も小さくなります。
④ NEDC
NEDCは、New European Driving Cycleの頭文字を取ったもので、EUが定めた基準です。ただ、WLTCのほうがより実走行に近いため、JC08と同じようにWLTCへ移行されています。
EVでは、WLTCで航続距離を見るより、EPAで見たほうがより実際的です。なお、WLTCからEPAへの換算は公式で求めることができるため、インターネット検索で「WLTC EPA 換算」で調べると自動換算サイトが無数に出てきます。
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その航続距離、本当に必要ですか?
まず筆者は、これを申し上げたい。EVの車両価格の3割以上がバッテリーの値段となり、車両重量のうちの多くをバッテリーが占め電費に悪影響となりますので、無駄にバッテリー容量を大きくする必要はありません。イーロン・マスク氏も、航続距離600マイル(約965km)以上のEVは作らない、効率が悪く無駄だとしています。
みなさん、1日運転して◯km走ったというご経験は少なからずお持ちかと思います。タクシーの運転手は東京都内で1日約100kmが標準的、郊外でも200kmは超えないようです。筆者はよく、アホかと言われるほどのロングドライブを新型の広報車でしますが、高速道路を主体で走らなければ1日500km程度が限界です。高速道路だけの走行でも、1日500kmを超えると辛くなってきます。たぶん、これは単に運転している時間だけでなく、移動した距離が体に与える負荷になるんじゃないかなって考えているんですよね。例えば、飛行機で1時間のフライトでも、移動を終えたら疲れたりしませんか?話がそれましたね、すみません。
日本のドライバーの約半分は、1日の走行距離が30km以下で、8割以下が50km以内だそうです(おそらくペーパードライバーは省いていると思います)。なんとなくEVの航続距離は500km以上ないとダメっぽい風潮がありますが、あくまで風潮に過ぎないですね。軽EVの日産 サクラ/三菱eKクロス EV(設計が両車おなじ)のWLTC航続距離は180kmで、日産はサクラの発表会のとき「このバッテリー容量(20kWhとEVにしてはかなり小さい)で、1週間ほど無充電で走れる(1日の走行距離が30km以下なら)」と胸を張っていました。
サクラ/eKクロス EVのWLTC航続距離をEPAに換算すると、160kmとなります。ここから実走行での乖離があったとして、140〜150kmの航続距離となります。長距離ドライブはしんどいですが、日常の足ならまったく問題なし、といえますね。
バッテリー容量が大中小選べるEVが望ましい
筆者はこう考えています。バッテリー容量が2種類あるEVはたくさんありますが、できれば、バッテリー容量を大中小の3タイプから選べたほうがいいと思います。必要がなければバッテリー容量が小さいモデル車両価格は安くなりますし、バッテリー生産時の環境負荷も軽減できるなどメリットがあると考えていますが、技術的に何か問題があるのでしょうか……ひょっとしてバッテリー容量の種類が増えると、開発コストや製造コストが異様に高くついたりするんでしょうか……誰かご存じの方いたら、教えてください。
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バッテリー容量が大きいと充電時間も長くなる
当たり前のお話ですが…最近のミドルクラスEVのバッテリー容量はだいたい70kWhの大容量となりました。これを自宅の普通充電でSOC(State Of Charge=バッテリー残量)が10%から100%まで充電するとしましょう。家庭に設置できる普通充電器の出力は、3kWが主流で容量が大きいもので6kWです。
70kWhバッテリーのSOC10%では、63kWhの充電が必要となります。出力3kWの普通充電では、63kWh÷3kW=21時間、出力6kW器で63kWh÷6kW=10.5時間となります。
ポルシェ・アウディのディーラーが協力して大容量な急速充電器をユーザーに提供することが発表されています。近くにそのディーラーがあれば、急用があってもすぐに充電できて遠出しやすくなります。
航続距離が長い大容量バッテリーのEVも、一旦空になったらみんないっしょ
公共急速充電器は充電時間が上限30分ですし、繰り返し充電(これを「おかわり充電」とも呼ばれています)はマナー違反になります(周りに充電待ちのクルマがなければいいのですが……SNSではそうして叩かれたアカ主を何回か見ました)。
EVで長距離ドライブして、宿泊先で一晩充電はとても効率がいいですが、そもそも宿泊施設に充電設備を備えたところが少なく、あってもほかのクルマが充電していたら、だいたい朝までどきません。
今のところ、長い航続距離を求めてバッテリー容量を大きくしたところで、長距離走行には事前の調査をしっかりとして充電計画を立て、実現可能かどうかを検証しなければなりません。
どんなに航続距離が長くても、出先でバッテリー容量がなくなったら、公共急速充電器で入れられる電気の量は、バッテリー容量の大小(すなわち航続距離の長短)にかかわらずいっしょとなります。航続距離が長い大容量バッテリーのEVも、一旦空になったらみんないっしょです。
充電時間という側面からしても、無駄に大きなバッテリー容量はEVに必要がないと筆者は考えています。
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航続距離の長短をEVの性能の良し悪しにしたらダメ
はい、そういうことです。今のところ、EVのバッテリーそのもののメーカー別の性能差はたいしてありません。航続距離は重要なスペックの1つですが、新型EVの発表のたびにメディアが、航続距離をスペックの代表として言うのは、一般消費者をミスリードしてしまうことだと筆者は思っています。
EVは、内燃機関(ガソリン・ディーゼル車)に比べると、コモディティ化されてしまう部分がたくさんあるので、我々メディアとしては、何を真っ先に伝えるのか考えなければなりません。少なくとも、私がEV新型車の記事を書く時は、タイトルに航続距離を入れないようにします。
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(文:宇野 智)
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※この記事は、2022年10月時点での情報で執筆しています。